4-2)評価の検討の観点(一般論として)

評価制度の検討に入る前に、どのような機能を評価制度に期待できるかをこちらで説明しました。
これらを評価制度に織り込んでいくために評価項目を設定することになります。評価項目とは一般的には「目標達成度」とか「勤務態度」といった、評価を構成するカテゴリー、あるいはその中の細目のことを指します。多くの評価はこうしたいくつかのカテゴリーを組み合わせ、それぞれのウエート(配分率、重み付け)を設定し、点数化しています(別項で説明しますが、点数化が不可欠というわけではありません)。

評価の活用先はどこか?

組み合わせや細目を設定するにはその評価の結果をどこに用いるのかをまず設定しておくことが欠かせません。用いる先によって項目の内容が変わってくるからです。
例えば最も多いのは賞与支給額の決定のためと昇給額(基本給改定額)の決定のためでしょう。報酬制度の所でも触れますが、賞与は会社の業績によって変動することがあるのが前提で、比較的ドラスティックに運用することができることからその期間中の短期業績を重視する傾向があります。今年の業績の良し悪しは今年のうちに示し、メンバーと共有したいという発想でもあります。
一方で昇給(基本給改定)は年1回しかないことがほとんどです。こうして決まった基本給は生活の基盤となるものと捉えられていて、これが短期で変動すると生活が安定しません。メンバーに安心して働いてもらおうとするなら、こちらはドラスティックではなくスタティック(安定的)に運用しようと考えます。とすると短期の業績ではなく、その人の実力や実際に担当している職務内容といったような職務遂行上のベースとなるものを見ていくのがよいのではないかと考えたりします。
このほかの活用先として昇格昇進があります。昇格は社内格付に関するもので格付が上がることを昇格、下がることを降格といいます。社内格付は処遇の基本(説明変数)ですから格付に見合っているかどうかを観察できることが評価制度には求められることになります。一方の昇進は管理職に任命することをいいます。より上位の管理職のが昇進、下位の管理職となるのが降職です。こちらは管理職として適任かどうかを見ることになりますから、評価も事業計画の立案や遂行、メンバーの指導育成、組織づくりなどがテーマになります。
このように目的に合わせて評価のカテゴリーを設定することになります。
ところで、評価やその内容(カテゴリー)の呼び名が会社によってさまざまです。賞与向けの評価のことを「業績評価」、昇給や昇格に関わるものを「能力評価」というところもあれば、それぞれを目的に合わせて「賞与評価」「昇給評価」と呼ぶところもあります。
また、「賞与評価」の中のカテゴリーの一つとして業績管理指標の到達度に関するものが入っていてそれを「業績評価(項目)」、職務遂行に関する能力の発揮度合いに関するもの(例えば企画力だとか)を「能力評価(項目)」と呼んでいるところもあります。このように、何を指しているのかが実はばらばら‥‥。他社の制度を参考にしたり、あるいは評価に関する勉強会や情報交換会に参加した時に、どのレベルのことを話しているのか、聞いているのかを留意しておく必要があります。

何を見るのか?

活用先にあわせて、まず何を見るのか、どの領域を確認していくのかを検討します。
例えば、主に結果(アウトプット)を確認していくのか、期間中の取り組み、活動(プロセス)を観察してそれを元に評価をしていくのか。ときに「結果さえよければそれでいいの?」という話があります。「目的は手段を正当化する」という言い回しが「真」であるならば目的がどれほど達成されたかという結果を見ればよいと言うことになります。しかし、一方で「優れた行いの先に結果が着いてくるものだよ」とするのであればどのように取り組んだかをきちんと見ておくことは欠かせないということになります。この辺りは組織の経営理念、人事理念が色濃く反映される部分です。正解があるというわけではありません。しかし、別項で示したように評価とは経営メッセージですから、そちらにメンバーの考えや行動を誘導することになります。例えば受注を獲得するという結果を重視しすぎることが、お得意先に負担を強いたり、押し込み販売や循環取引を画策するという活動を生み出してしまうことがあります。コンプライアンスの面を考慮するなら手段、つまりアウトプットにいたる過程を見ておくことは重要ではないかと思います。
これに類することではありますが、「結果」を見るのか「行為」を見るのかというのも検討のポイントです。事柄とは結果に近いものですが、何を生み出したのかということを指しています。行為の方はそれをどのような行動で実践していったかを指しています。前項のプロセスが「方法」を指しているのに対して、こちらは行動を指しています。チーム活動が求められる職場では、個人がどれほどのことを成し遂げたかということも大事ですが、メンバーにどのように関わったか、サポートしたかも問われることがあります。かかわり方やサポートにも目を向けるのか、そうしたことをうまくやった上で結果は現れるのだから、そこは結果だけを見ればよいと考えるのか--これもその組織の考え方によります。
また顕在化したものしか見ないのか、潜在的なものも見るのかというポイントもあります。先の「結果」は顕在化したものの最たる例です。一方で潜在的なものも見てしまいそうなのが「企画力」だとか「交渉力」といった、「〇〇力」や「〇〇性」という名称の項目です。企画力がどのように発揮されているのか、それを行動レベルで観察して評価をするのであれば顕在化したものということになりますが、つい「う~ん、あいつの企画力か~。ま、よくやってんじゃない? 提案書もいいの書いてくるし」というような判断であれば、それとは分からない潜在的なものも見ているということになります。潜在的なものは見るべきではないというスタンスもありますが、一概には言えません。「結局は人物評価や憶測になってしまいがち」なので潜在的なものは見ないというのも一理ありますし、先の「評価の活用先」で取り上げたように、管理職としての将来性を予測するための「評価」であれば、実際に管理職として活動しているわけではないのですから「可能性」を見るしかありませんし、むしろそこに意味があるともいえます。

どのようにしてみるのか?

何を見るかが決まったら、それをどのようにして見ていくのかを考えなければなりません。

どのようなツールを用いるか

一般的には「評価表」「考課表」といった「紙」が用いられることが多いですが、IT化が進んだ今日、いつまで紙を使うのか‥‥ということは考えておかなければなりません。リモートワークが一般化すれば電子化は欠かせません。
それだけでなく、評価の納得感を高める上では、評価表を記入する時期になって慌てて取り出して確認してみるのではなく、期間中にどの程度の進捗なのかを話しておくのが重要です。終わりごろになってから「これじゃぁ評価低いよ」といわれても本人にして見れば手の打ちようがありません。それに評価が半期に一度なのであれば、その半年間を無駄に過ごさせてしまうことになります。評価は序列を付けるためにやっているわけではなく、組織として成果を挙げて行くためにやっています(序列を付けるためにやっているという会社もあるのですが)。とすれば、期中に話すことが重要なのですが、そのためにも電子データになっていた方が使いやすいでしょう。
また、業績管理指標(受注見込み額だとか提案先数だとか、業績を引き上げるための活動状況をつかむため先行的な指標)を評価の項目に用いることは評価項目としては有効なのですが、これらは文字通り業績管理のために計測し、業績検討会議などで用いられるものです。評価のためのものではありません。とすれば、業績検討会議向けにつくった数字がそのまま評価表に反映されるようにしておかないと、評価のための手間が発生してしまいます。この意味でも評価表が独立した単独の「紙」であるのは使いづらいことになります。
もちろん「紙」にはその良さもあります。PCやWifiがなくても取り出して直ぐ話せます。なによりちょっとした書き込みもしやすいです。

だれが見るか

ほとんどの場合は管理職(上司)が担当しているでしょう。評価をする権限はリーダーのパワーを生む源泉の一つですから、ごく妥当な方法です。
とはいえ、「何を見るか」のところで上げたように、結果だけでなくプロセスや行為・行動を見ようとすると、管理職だけでは足りないことがあります。IT系の職場でよく見られることですが、職場がお客様のところにある「客先常駐」いった場合などがこれに該当します。こうした場合、そうした職場ごとに「参考評価者」として主任、リーダーといった人に権限委譲して評価を記載してもらい、それを管理職が確認するという方法をとることもあります。見る人が増えることになります。
お客様に尋ねてみるということをしているケースもあります。評価表を記載してもらうわけではありませんが、管理職が訪問してお客様から直接働きぶりを聞くことことでよりリアルに捉えようとするのです。評価される方からすれば、普段のことを全然知らない管理職に評価されるよりも納得感があります。管理職の方もより多くの情報を得て本人も納得できるものとするというだけでなく、今後の関係構築をより確かなものにするという、営業上の効果も期待できます(逆に、そのことが本当の働きぶりをつかめなくすることもあります。「よくやってくれているよ」というと、単価を引き上げられてしまうのではないかと顧客側が考えてしまうという場合はよくない側面ばかりが指摘されるかもしれません)。
さらに広げて同僚からの評価も取り入れているケースもあります。職場を同じくして仕事をしているのだから、お互いの貢献も考慮したいと考える場合です。
こと管理職については「部下」からの評価も取り入れようという場合もあります。いわゆる360度評価(多面評価とも呼ばれます)。
評価をする人が増えるということのメリットはより客観的、多面的なデータを持ちることができることです。しかしその一方で人数が増える分手間はかかります。また、評価というのはどうしてもばらつきが出てしまうものです。見る人が増えるということは、それを集計する際に平均をとるなどの処理をしますから、だんだん丸まった内容になってしまいます(10人中10人が全員が3点でも、5人が5点、5人が1点でも平均は同じ3点になるということ)。そうなると多面的に見た意味がなくなってしまいます。ばらつきがなければいいのかもしれませんが、ばらつきがないのであれば、そもそも多面観察をしなくても上司だけでことが足りるということになります。従って360度評価などを実施する際は、「見た人によって差があるかもしれない」ということを前提とすることになります。
特に管理職の360度評価については、当人に自分と他者の認識の違いはどこから来るか、どういう意味があるか、どう対処していくのかといったことを丁寧に伝え、考えてもらう必要があります。でなければ管理職が「だれだ、低く付けたのは」と犯人捜しのようなことをしたり、逆に受け容れてもらおうとおもねいた評価をしたりということが発生します。そうした手間をかけることを考えると、賞与だとか昇給といった目的で使うのにはあまり適していないことが分かります。管理職としての育成を目的として実施するのが適当でしょう(賞与や昇給に反映させている会社もありますから、絶対に避けるべきというわけではありません)

基準

評価をするには「基準」が必要です。
社内に格付制度があるなら、この格付の高さが基準になります。「能力」による格付なのであれば、その能力に見合った基準が適用されます。同じ仕事をしていても、格付が高ければそれなりに評価基準も高くなるので、同じ様な仕事ぶりだと評価は異なることになります。
一方、「役割」による格付なのであれば、その役割の業務内容が基準となります。同じ仕事をしていて同じ様な仕事ぶりだと評価も同じということになります。
人事制度を構築する際にはまず社内格付をどのように設定するのかというところから議論に入ることが多いのですが、このように評価の方法、内容は密接に関連するので、評価の議論に入った後に改めて格付制度を検討することもあります。
もう一つ検討しておくことはその基準をどのように示すか、ということです。
例えば数値で示すのか、非数値で示すのか。非数値とはどのようなものがあるかというと、「行動レベル」という考え方があります。少々前になりますが、コンピテンシーという考え方を用いら評価方法が取り入れられるようになっています。これはその職務を遂行するにあたって必要な、そして効果的な行動に着目し、これを何段階かに区分して表現し、そのどのレベルに該当しているのかを評価しようという考え方です。在るべき姿が示されるので、育成にあたる管理職だけでなく本人にとっても成長の目安を獲得できるという点から有用とされています。
また、数値っぽく見えますが実際には数値ではないものも入っていることがあるものに「達成度」があります。売り上げや利益目標について実際どの程度まで到達したのかというのは実績を目標数値で割れば求められるのでこれは数値なのですが、例えばプロジェクトの進捗率といったもののように、「80%まで来ています」とはいうものの、それは「8割方できてますよ」という感覚的な進み具合を指しているに過ぎません。売上達成度などでいえば80%達成しているというのは、40%達成の2倍の売り上げがあるということになります。達成度が2倍ということは達成した量も2倍なのです。しかし、進捗率80%は40%の2倍分進んでいるかというと、例えば使用している人件費ベースだとか、開発したプログラムのステップ量だとかでもないかぎり、感覚的なものでしかありません。数値っぽいけれど数値ということではないとはこういうことです(尺度構成法に詳しい方であれば比率尺度は、距離尺度や序列尺度とは違うということなんだなとご理解いただければと思います)
であればすべてきちんとした数値でやればいいのでは、ということになるのですが、数値として表現しづらい成果というものが現実世界にはあります。かつて「成果主義人事」なるものが失敗した原因の一つが、「評価してその結果で処遇を決める」ことを徹底するために「結果を数値で評価できないものは評価しない」という方向へ進みすぎたことでした。この辺りはまた別の記事で。

対象の単位

ここでの単位とは評価の対象を「個人」にするのか「チーム」にするのか「部署」にするのかということです。
評価は個人について行うものじゃないの? と思われる方もいらっしゃるとは思いますが、個人の貢献を測定できないケースというのもあります。例えばサッカー。得点が入ったとき、それは最後にシュートした人の成果ととるのかどうか、といった話です。よいスルーパスを出すというアシストがあったからではないか。いや、フォワードの選手がその人に対するマークを外すために別方向に動いたからフリーになってシュートできたんだから‥‥といったように、ある特定の個人に成果を帰属させることが難しいことがあります。チームでの活動している職場はまさにこうしたことが起きているはずです。シュートして得点した人しか評価しないということになると、「ちょっと無理かな」と思っても強引にシュートにいってしまうかもしれません。ましてやチーム内で「得点の多い方が良い評価」ということでやっていれば、「自分では無理かもしれないけれど、あいつに点を取らせるよりはやはり自分で」という行動を助長します。結果的にチームはばらばらになってしまいます。とすれば、「チームとしての勝利」をきちんと評価した方がよい方向に向かいそうです。
なお評価の単位は組み合わせて使うこともできます。サッカーでいえば個人としての「シュート数」「アシスト数」といった個人の活動量だけでなく「出場していた試合でのチームの勝ち点」なども考慮するということです。

タイミングは?

評価期間をどの程度とるのかということを指しています。半年に一度というところが多いかと思いますが、そうでなければならないという法令上の取り決めはありません。ではなぜ、半年や一年が多いのでしょうか? 一つには会社の事業年度が1年と決められ、そこで決算をしないといけないからです。特に評価の結果を賞与に反映しようとするなら、賞与にどれほどの原資を割くのかは株主をはじめとするステークホルダーの承認が必要なケースもあります。また、就業規則に「昇給は年1回」と書いてしまっているので、年に1度は昇給しないといけないので、そのために1年に1度評価するしかないということもあります。
ところで今日の企業は四半期で業績報告を行うところが増えています。それと連動させるなら四半期に一度評価を行ってもよいはずです。「そんなに頻繁にやったら大変。年に1度でも大変なのに」という反応が多いのですが、これは別の言い方をすれば「評価のための活動を別途やっている」ということを示しています。「ツール」のところでも説明しましたが、業績管理と連動していると業績検討会議をする時点で結果は出ているはずなので、評価の全部とはいわないまでもある程度は終わっているはずなのです。
しかも、実際には半年間あるいは1年間の活動がどうだったかということをきちんと覚えている人は少ないのです。なので、適切に評価をしようとすると少なくとも月に1度くらいはメンバーの活動はどうだったろうかという振り返りをしておく必要があります。振り返りをしたついでに評価表にメモをしておきさえすれば半年後、一年後に困ることはありません。言い換えれば、いつでもそれをまとめるだけで評価ができるはずなのです。毎月評価をすることもできるはずです。このところ導入が進んでいる「One on One」をやっていらっしゃるなら毎月の評価は現実的な話ですし、期末になって評価するときには改めて考えるというよりは、そこまでで思っていたことを紙に落とすくらいになっているはずです。

組み合わせて、自組織に適当なものを

ここまで評価制度を設計する際に検討するポイントを挙げてきました。いくつもの観点がありますが、これらを組み合わせて評価制度を設計することになります。
途中でも記載しましたが、これが100点というような評価制度があるわけではありません。自社の自組織の現状、そして目指そうとする組織の姿に合った評価制度があるだけです。さらにいえば評価制度がなくても(あるいはない方が)組織としてはうまく行くということもあります。
他社がどのようにしているのかは選択肢を増やすという意味で役に立ちますが、最終的には自組織に合っているかどうかを考えて決めなければなりません。
また、1度決めて取り組んだとしても数年に1度の見直しは欠かせません。環境も変化しますし、組織の状態も変化します。評価には経営メッセージを伝える機能があると別の記事で記しましたが、伝えたいメッセージも変わっていきます。