4-3)評価項目~何をみるか
評価制度を考える際に検討すべきこと、何をどのように見るのかという点についてこちらで説明しました。こうしたことが決まってくると、それに合わせて測定方法を考えていくことになります。
多くの場合、評価はいくつかの内容を組み合わせます。国語の試験をイメージしていただくと良いと思います。例えばかつての共通一次試験(つい先頃まではセンター試験と呼ばれていましたが)の国語の問題といえば
【1】漢字 ①読み仮名をふる ②漢字に直す ③部首を答える・画数を答える
【2】文法 ①活用形を答える ②品詞の種類を答える
【3】慣用句、ことわざ ①指定する慣用句を使って文章をつくる ②ことわざの意味の近いものを探す
【4】長文読解(論説文) ①文中の「ここ」を指しているものは何か ②筆者が反対している理由を3つ挙げる
【5】長文読解(物語) ①主人公の気持ちに最も近いものはどれか ②気持ちが変化したきっかけとなったのはどの表現か
【6】詩歌 ①季語はどれか ②読み下し文を作る
【7】漢詩 ①この漢詩の種類は何か ②この漢詩に倣った故事成語は何か
国語の試験であれば、その知識を測定するためにこのようにさまざまな角度から理解度を探索していきます。評価も同様にいくつかのカテゴリーで対象者の貢献度や能力を測定していくことになります。
ここではそうしたカテゴリーにあたるものの種類と特徴を説明します。国語の試験でいえば【漢字】【文法】【長文読解(論説文)】といったものに該当します。なお、別記事でも説明したとおり、評価項目の呼び方に【定義】というのはあまりありません。会社によって(コンサルタントによって)それぞれの意味を持たせて使っていることがほとんどです。ほぼ同じものなのに名称を変えていることもあります。これまでのいきさつがあって項目名を変えたい(たとえば今までの名称が名が体を表すものではなかったとか、評判が悪かったとか)ということもあれば、独自性を打ち出したい(設計者やコンサルタントの自己表現ともいえます)ということもあります。ここでの名称もできるだけ内容が分かりやすいようにと使っているものなので、一般名称ではありません。ご留意ください。
また、それぞれのカテゴリーに合わせて測定方法も検討する必要があります。国語の試験でいうなら問い方、答え方を【選択式】にするのか【適語補充】にするのか【○○字以内で述べよ】にするのかといった違いです。これについては改めて説明します。
業績管理指標評価
「業績管理指標」を中心に、一定期間内に挙げられた成果(アウトプット)を測定しようとする項目です。
業績管理指標とは
業績管理指標とは会社あるいは部門の経営が適切に進んでいるかどうかを把握するための指標で、わかりやすくいえば全社的な業績検討のための会議(たとえば経営会議)や部門ごとの実績検討のための会議(例えば営業会議や生産会議などなど)で取り上げる「数値」です。売上高(生産高、出荷高)や利益、利益率、稼働率、原価率、歩留率などなど、年間の計画や前月あるいは前年同月と比べてどうなのかに気を配ることで、会社あるいは部門の現状を的確に把握し、必要があれば今後の対応策を検討するための手がかりとするものです。KPI(Key Performance Indicator)あるいはKGI(Key Goal Indicator)と呼ばれるものもがこれに該当します(もちろん両者に違いはありますが)。
航空機の飛行方式には「有視界飛行方式」と「計器飛行方式」があります。前者は操縦士が自身の目で判断して行うものです。しかし雲の中にいると目で見て確認することはできません。周りが見えないので(というか同じような雲ばかりが見えるので)、どの方角にどのくらいの高さで飛んでいるかが分からないのはもよより、スピードも分かりません(場合によっては天地も分からなくなるそうです)。こうしたときに頼りになるのが高度計や速度計といった計器が指し示す値です。自身が今どの方向にどのくらいの早さで、高度で飛んでいるのか、今の地点はどこか、それは目的地に対してどのくらい離れているのか‥‥といったことを判断するには欠かせません。業績管理指標はこの計器に示される数値のようなものです。この数値を見て巡航速度は適切なのか、予定の通り進んでいるのか、経営状況を把握するわけです。もちろん、現場を目視してどれほど忙しいのかといったことを判断することも欠かせませんが、より上位職になればなるほどこの指標による判断が増えていきます。また業績検討会議はあたかもコクピットに座って計器の数値を見ながら議論する場ともいえます(計器飛行方式だけでは航空機の運航ができないように、現場との乖離を生まないよう有視界飛行も心がけましょう)。今まさに飛んでいる時に判断するのですから、正確性もさることながら速報性が問われるのも業績指標の特徴でもあります。
評価と経営管理の一体化
文字通りその指標の動きが経営管理のカギとなっているわけですから、これらを評価の対象にしていくことで、メンバーの関心がこれに向けられるようにしようというのが評価項目に取り上げる理由です。定期的に業績検討会議の場で取り上げられるのですから、評価の段階になってわざわざ集計する必要がないだけでなく、期間中どのように推移しているのかも分かるので、メンバーとしても「もっと頑張った方がいいかもしれない」「いい感じできているようだから今の状態をキープできようにしよう」といったことを主体的に考えられるのもこうした項目を取り上げるメリットです。
「評価に対する納得感」ということが評価制度ではよく取り上げられますが、期間が終わった後になって「実はBなんだよ」と結論だけ伝えられるのでは、唐突で、あまり納得感は出てきません。期間中に自分の状態が分かっていればある何らかの対処をしようと思うものですし、「このまま行くと‥‥」と当人も予測できるので心構えもできます。終わったあとで「実はね‥‥」といわれても、遅きに失するといいますか、「だったら早くいってくれれば」と半ば恨みがましい気持ちになってしまいます。評価は部門の業績を引き上げていくために行うものです。終わった後での振り返りも大切ですが、期間中にそれをもとに上司と部下の間で検討し、必要があれば即座に修正していくことの方が大切です。評価制は本来マネジメント活動、職務行動と一体であるべきなのに、それが乖離して感じられるのは評価についての検討が評価期間末(しかも多くの場合は終わってから1カ月くらいしてから)始まるからではないでしょうか。
計測する範囲と評価の単位
業績検討会議で取り上げる数値は「部門」や「チーム」単位のことが多いのですが、期間中に上司とメンバーでの振り返りを行うとするのであれば個人単位での数値も必要になります。従って集計も個人単位で、随時できるようにしておく必要があります。この場合、会議用と評価用に別々に取り纏めが必要ということになると評価のためだけの手間が増えてしまいますから、一体化している方が便利です。ただ、個人の集計を取ることに手間やシステムが必要という場合、業績管理指標評価については敢えて個人単位とせず、集計可能な部門単位で行うという考え方もあります。
業績管理指標は毎期見直されるものですから、これにあわせて評価での内容も検討されることになります。業績管理の項目が毎年大きく変動するということはあまりありませんが、本当に経営判断に寄与しているのかという観点からの見直しは必ずやっておく必要があります。
課題達成度評価
一定期間内に達成すべき経営管理上の「課題」を解決(解消)したかどうかを測定する項目です。
課題とはそれぞれが達成すべきテーマ(成し遂げるべき成果)
ここでの課題は各人が異なるものであること、また課題の解決であることから必ずしも数値でなくてもよく、完了した「状態」を判断することも可とするという点が先の業績管理指標は大きく異なる点です。この課題達成度評価の特色でもあります。
一人ひとりに設定できますから、例えば部門内で分担して何かをやり遂げたい場合、Aさんにはこのこと、Bさんにはこのことというように担当を決めて任せることもできます。先の業績管理指標でも個別に割り当てることはできますが、前提が経営管理を行うための指標を用いるという所にあるので基本的に対象者は同じ指標を用いている方が効果的です。課題達成度の方は、個別に成し遂げるべき成果を設定するので、数値化できる業務は当然のこと、数値化できない業務であっても評価として取り扱えることになります。
できれば難易度の高いものは避けたい‥‥
ただ、それがこの評価項目の問題点でもあります。「解決すべき課題」というのは部門の状況に応じて発生するものであって、評価をするためにあるものではありません。従って取り組みやすいもの、結果が出やすいもの、分かりやすいものもあれば、なかなか取り組みづらいもの、結果に結びつきづらいもの、難易度の高いものもあります。しかし、いずれにしてもそのことは解決しなければならないことなのでやってもらわなければなりません。しかし、任される方からすれば、それが評価につながるとすれば難しいものは避けたいですし、結果が分かりづらいものだと評価されづらいかもしれないと思ってしまったりします。評価する/されるという要素が関わることで、損得勘定も発生してしまうのです。
難しい課題でも前向きに取り組んで欲しい--そうしたことから、評価の際には取り上げる課題について難易度を設定しておき、難易度の高いものに取り組むと結果が出た時に+αされるようにすることで、簡単なものの時よりも評価が高くなるように設計することもあります。要は難易度を係数に置き換えて、評価得点を増加させるようにするということです。比較的実施されることの多い方式ですが、「難易度」という感覚的なものを「✕1.10」「✕1.20」といったような数字に置き換えることはかなり難しく、結局は集計後の得点を見て「この課題、やってみたら難易度は低かったよね。だから倍率は1.0ね」というような逆算を引き起こすことになりがちです。「そうされないように、大変だ~ということをアピールしてますよ」という被評価者(メンバー)もいますから、機能するかどうかは検討が必要です(と申しますか、お勧めしません)。
成果を見据えることが大事
難易度のことは改めて説明しますが、そもそもこうした課題を期首に設定するということの限界にも気づいておくべきです。環境が著しく変化する中、半年あるいは1年前に設定した「課題」が果たして効果的であり続けるかどうか疑問が残ります。そもそもどうにかしないといけないことというのは、これまでの手立てが通じなくなっているから発生しているのです。とすればその対策、どうやって解決するのかということから考え始めなければなりません。しかも解決された状態、つまり「目指すべき状態」というのも変わっていくことがあります。とすれば、先の業績管理指標以上に、期中に目指すべき状態に変わりはないか、取り組んでいる方法は今も妥当なものか、それはきちんと進んでいるかということについて、きちんと期中に打合せをしておくことが欠かせないということになります。別項でも取り上げていますが、上司とメンバーが短いサイクルでミーティングを持つ「1on1」で取り上げるべきことの一つにこのことがあります。「1on1といっても話すことがないんだよね」という方は、是非取り上げてみて下さい(むしろこの話をしないと1on1の意味が半減すると思います)。
目標による管理(MBO)のことですよね?
各人が課題達成度評価は目標を立てて、その達成度を評価するという形式であるためか、「目標による管理(MBO;Management By Objectives through self-control)のことですね、といわれることがありますが、P.F.ドラッカーらが提唱している目標による管理(MBO)と課題達成度評価は別の概念です。目標による管理はマネジメントの理論、考え方です。一方、ここで取り上げている課題達成度評価はあくまでの評価のカテゴリーのことです。異なる次元のことなのですが、部分的には関係するので混線を招くことがあります。
例えば設定する「課題」。課題達成度はあくまでも会社あるいは部門の計画を達成するために設定するものですから、基本的にはトップダウンです。一方、MBOではその目標(Objectives)については本人がそれについて所有感を持つことを重視します。自分にとって意味のある目標である、と思うからそれについて熱心に取り組み、達成しようとするからです。上司としては本人が意味を感じられる目標を持てるようすることが、自身の部門の状態をよくすることにつながるということになります。しかもその目標が部門にとっても達成したいものであったり、どうにかしたい課題の解決であればなお良いわけです。なのでそれが重なるように、同じになるように働きかけるわけです。その結果、うまく重なったときが、「課題達成度評価の課題」≡「MBOでいう本人の目標」になります。この状態は上司にとってもメンバーにとっても、そして組織にとってもベストな状態といえます。
課題達成度評価をするならその課題は「課題」≡「MBOの目標」であることがベストではあるのですけれど、一方で「そうはいってもこれはやって欲しい」ということがあります。これを「MBOの目標」としようとするときに妙なことになってくるのです。「目標を書いていっても結局面談で上司からいろいろ言われて結局は上司の言うとおりのことを書くだけ。だったら書いて寄越せって~の」ということが起こるのはそうしたときです。これはMBOではありませんね。しかも、手間暇かけてよけいな軋轢を生んでいるだけです。
課題達成度評価の課題はトップダウンでも構わないのです。ただ、「やれと言われたからやる」というやらされ仕事よりもそこに意味や意義を感じる方が取り組む方としてもモチベーションを感じやすいので、一方的な押しつけではなく、なぜそれをやるのか、それをやるのはなぜあなたなのか--といったことは説明した方がよいはずです。そして、それはマネジメントとしてMBOを取り入れているということそのものではない、ということです。
行動特性評価
その職制、職務、あるいは役割において求められる行動が取られていたかどうかを測定しようとする項目です。
結果ではなくて行動(過程)をみる
前の2つが結果を見ようとしているカテゴリーだとすれば、こちらは結果ではなく行動面での評価をしようとしているところが大きく異なります。
「結果に結びつかない行動に意味があるのか。結果が出なければいくら頑張ったと言っても意味はない」という議論はよくあるのですが、「よい結果はよいプロセスから導かれるものである」という考え方もあります。どちらかだけが正しいのではありません。どちらもある前庭条件の上では正しいのです。その前庭条件とは何かというと、一つにはそのビジネスがおかれている状況やビジネスの仕組み、そしてもう一つはその組織の経営理念です。
販売業においては最終的に購入してもらって入金がないと、いくら丁寧に仕事をしていたとしても会社としては資金がショートしてしまいます。その意味では「売上高」「契約高」や「契約内容」が大きな意味を持ちます。一方、フルサービスの外食業においてはお客様にご来店いただき、食事を楽しんでお支払いをいただくまでだけでなく、「あの店はよかったね。また行こうか」とかSNSなどに「皆さんにもお勧めしたいお店」と書いていただかないと終わったことになりません。これを達成しようとすると、料理の質だけでなくお店の雰囲気、サービスするメンバーの一挙手一投足が完璧である必要があります。サービスは真珠の首飾りのようなもの--といわれます。入店前からお帰りになるまでのどこか一個所でもサービスの質が途切れてしまうとそのお店での体験すべてが台無しになるのです。それはレストルームのゴミ箱がいっぱいだったとか、付け合わせが不揃いな皿があったとか、精算でキャッシュレスのカードに手間取ったとかということなのです。こうしたサービスの連鎖を「売り上げ」と「客数」だけで見ていては一人ひとりのサービス品質を上げることは難しく、ひいては店舗業績の向上は難しいでしょう。
販売業は結果がよければよく、サービス業は行動が大切というわけではありません。販売においてもその過程が重視されることもありますし、サービス業でも結果(例えばサービスを提供した客数、顧客アンケートの結果など)が大切になることもあります。そのビジネスの肝、勘所は何かによるります。
経営理念を浸透させる
そして、それは経営理念に結びついているはずです。しつこく別記事を参照しますが、評価というのは経営理念や経営計画の実現をより確かなものにすることに寄与する必要があります。とすれば、組織のメンバーには何を目的にどのように活動して欲しいのか、経営計画とは別に企業理念やクレド(Credo)という形で示している場合、これが日常の職務行動の中でどのように現実のものとされているのか、それをきちんとモニタリング(=評価)することが欠かせません。このとき結果だけではなく、「行動」を見るというのも一つの有力な方法です。
ただし、見るべきは顕在化されたものであることが重要です。「心に銘じてます」では不十分です。それは「思っているだけでは分からない」からというよりは、業務が他者に働きかけるものであるとき、その働きかけは「行動」や「言動」を通したものだからです。その部分で伝わっていなければなりません。いくら心に銘じていても伝わらなければ効果がありません(逆にいえば命じていなくても効果があればよいということではあります)。そこで、行動面を評価するに当たっては、具体的にはどういうことなのかを考えることが欠かせません。
具体化する上で大切なのは「文章にすること」ではなくそれを考える過程にあるということです。文章化しないと共有しづらいですし、評価もしづらくなります。なので、文章化は欠かせないのですが、書いてしまうとそれに囚われてしまいがちです。ややもすれば「書いているとおりにやったから(それでいいではないか)」「書いていなかったから(やらなくてもいではないか)」ということになってしまいます。現場ではさまざまなことが起きているのでそれに合わせた対処が必要なことを考えると、「何をするか」ではなく「なぜするか」のほうが大切です。そのためには「文章にする過程」そのものを上司、メンバーで共有しておくことが効果的です。「何をするか」を文章にしようとすると「なぜするか」を考えずにはできづらいからです。この過程をともにすることで「書いてないから」という話にはなりませんし、何よりもその過程の中で何度も経営理念やクレドが登場することになり、その考え方を共有することにもなるからです。個人的には毎朝、経営理念を唱える以上にこの過程を共有する方が効果的だと思っています。
コンピテンシーに関する評価
コンピテンシーに関する評価もこのカテゴリーに含めてもよいでしょう。コンピテンシーとは、その役割においてコンスタントに高業績を上げている人を分析し、それを可能にする行動特性(知識、技能、ノウハウなどなど)を分析、抽出し、段階化することで、他のメンバーがそうした行動を修得できるように、また修得状況を確認できるようにしたものといえます。もともとは米・ハーバード大学のD.マクレランド教授が研究しMcBer社とともに開発したものです。個別にその組織、その職務においてのコンピテンシーを抽出するのが本来の筋道ではあるのでしょうけれども、ある種一般化したコンピテンシー・ディクショナリーから該当するものを選び出すという方法もあるようです(「あるようです」と伝聞調なのは基本的にこの考え方は考案者らが知的所有権を持っているので、それそのものを使ったことはないからです。コンピテンシーの考え方は学術誌をはじめ書籍として刊行されていますから、そこからの引用であれば知的所有権の侵害にはならないのかと思いますが、「コンピテンシー評価」という言い回しとかになるとどうなんでしょう‥‥)。
コンピテンシー・ディクショナリーに挙げられているものは「リーダーシップ」「育成力」「達成指向性」などがあります。リーダーシップ、育成力というとなんとなく次項の「能力」に近いような感じがするかもしれませんが、示されている評価基準は行動(~している)が記載されています。
とはいえ、特にディクショナリーを用いる場合にはそうなのですが、実際に評価しようとすると、「うちの部門では‥‥」「この人の役割においては‥‥」といったように具体化することは欠かせません。でなければイメージ評価に陥ってしまいます。
能力評価
その等級、職務、あるいは役割において求められる能力を保有しているかどうかを測定しようとするカテゴリーです。
○○力
職能資格制度だと各等級の定義が職能要件書に書いてありますから、それを元に「企画力」「判断力」「折衝力」などの項目をいくつか選んで、それについて評価します。能力であるためか「○○力」という表現形が多いようです。
同じ「折衝力」というタイトルでも等級が低い層と高い層では内容が異なります。そこで折衝力の定義とともに、例えば「1~3等級」「4~5等級」というようにいくつかの階層に分けて詳細を記述しておきます。
職能等級制度でいえば職能(職務遂行能力)に関する等級ですから、職務の種類毎に能力の基準を設定、記述する必要があります。営業職と開発職、設計職‥‥と職種が異なれば求められる能力は変わるからです。しかし、実態としては、「そこまでやっていない」というところが多く、全職種共通のもので運用していたりします(職種の違いに関わらず処遇体系がほぼ同様であることが起因していると思います)。
等級の層ごとに内容の記述を変えるだけでなく、能力項目の名称そのものを変えることもあります。先の折衝力であれば低い等級層では「対応力」といい、上位等級層では「折衝力」と表現するといった方法です。評価の際に用いる評価表(考課表)には細かな記述(定義)までは書いていないことが多く、標題だけで済ませてしまいます。名が体を表している方が誤解を招かなくてよいといえます。
内容が異なるだけではなくて重み付けを変えることもあります。例えば能力評価の中に「知識」(を持っているか)を入れることがありますが、低い等級では知識を習得していることが職務遂行の前提となることも多いことからこれを重視するとして30%程度の重みを付けるけれど、上位等級になると知識をどう活かすかが問われるので知識そのもののもつウエートは低いとして10%にするといった考え方です。ここでの重み付けは、評価点を集計する際に、反映の程度を変えるためにウエートを乗じるという形で用います。感覚的には「上位等級になると知識があるだけではだめなんだな」ということが分かりやすく、メッセージとして伝わりやすいのですが、実際に計算すると感覚とは合わないことも多く、最終的には比率は変えられないので各能力評価の項目の評価点を調整してしまうということが起こりがちです。評価点の方は、たとえば5段階評価だと2点から10点の範囲で評価点が設定され、「普通」(あるいは等級で求められる程度)が6点という設定が多いのですが、中心化傾向もあって6点がほとんどで、8点と4点が少し、2点と10点に至ってはほんの僅かという結果が多いです。なのに、ウエートに合わせて評価点を変えるということになると、きちんとできているのに標準評価以下(あるいは普通程度なのに良くできている)ということになってしまい、評価はあてにならないという結果に結びついてしまうというケースが散見されます。「逆算して評価点を変えるようなことがあってはいけませんよ」と指摘しても、「評価結果が実態とはずれてしまうのだ」という回答が多いのです。こうしたことを考えると、能力評価項目にウエートを付けるという方法は、メッセージ性もあるよい方法なのですけれども、運用はなかなか難しいといえるでしょう。
顕在的能力と潜在的能力
能力評価の時に話題になるのが顕在化しているかどうかということです。つまり「能力はあるのかもしれないけれど、それが目に見えては分からない」という場合にどう評価するのか、ということです。これは決して本人が「私は能力はあるんですよ。それを発揮出る仕事がないだけ」といっているという状況だけを表しているわけではありません。たとえばこれまでは優秀だったのがあることをきっかけにうまく行かなくなったとき、あるいは移動する前は優秀だったのに異動後はそれほどでもないという場合、それは「能力がない」とみるのかどうあか、ということです。
今できていないんだったらそれは「能力はない」ということなのではないか-というのが顕在的能力に着目した考え方です。しかし一方で「いまはたまたま発揮されていはいないが、能力としてはあるはずだ。元に昨年はちゃんとできていたではないか。能力なんてそれほど急に減衰するものではないだろう」というのが潜在的能力をも考慮に入れる考え方です。これも、人事問題に特有の結論になりますが、どちらも正しいのです。ただ、評価の際にはどちらのスタンスを取るのかははっきりしておく必要があります。人によって、特に上司によって異なるとメンバーとしては大変苦労します。
またいずれにしても能力をどのように把握するのかを明確にしておく必要があります。潜在的能力をみる場合は、その名の通り「潜在的」つまり目に見えないものも評価するということなのですから、上司の「心眼」ともいえるものが必要になります。ただ気をつけないといけないのは潜在的ということになると、人物全体を見てしまうことになりがちという点です。それは不都合があるとはもうしませんが、人物全体として評価をすると、上司の好みが反映することが多くなるのと、人物そのものを評価されるということが「あいつは使えない」といったラベリングに結びつきやすくなるという懸念があります。
また顕在的能力についていえば、どのような行動、言動、成果をもって顕在化したというのかについて明確化が必要です。その意味では先のコンピテンシ評価は、顕在化した能力を測定するために尺度化したものともいえるでしょう。
勤務態度評価
就業時の態度、執務姿勢を評価、測定する項目です。「積極性」「協調性」「責任感」などの項目が多くみられます。「○○性」という名前のものが多いように、その人の性質(性格)に注目するような項目が多いようです。能力と区分されているのも、能力の方は「どのようにこなしたか」つまり進め方を指しているのに対して、勤務態度の方は「どのように取り組んだか」というスタンスを指しています。あまり差はないようにも見えますが、「進め方はこれまでと同じ、人と同じではあるけれど、決められたことをきちんと実直にやっており、仕事にたいして前向きで進んで職務を担当していた」ということであれば能力評価は「普通」か「今少し」であっても、「積極性」は高くなります(進んで担当していたので)。逆に「業務改善のアイデアを次々に出し、効果的なものも多かった。ただそれを実施するのはほかのメンバーで、自身は気の乗らないことは人に任せてしまうことが多かった」という場合、能力の「企画力」は優れているけれど「協調性」は今ひとつということになる、といったことです。もちろん実際にはその会社なりの定義がありますから、この通りとは限りません。
人物を評価するということ
このようにみると能力評価と勤務態度評価があればかなりうまく評価ができるのではないかと思われるのではないかと思います。ある意味ではその通りです。なにせ職能資格制度の下では「業績」「能力」「勤務態度」の3項目で実施してきていましたし、相応の効果を上げていたからです。ただそのころは大量生産大量販売、つまりいかに効率を上げるかが職場の主たる課題であり、同じ様な仕事をしている人が製造現場はもちろん、営業にも、事務系職種にもたくさんいたので、誰がどの程度の生産性を発揮しているかどうか分かりやすかったですし、上司の目の前でやっていますから、どのようにすすめているのか、どんなスタンスなのかも分かりやすかったのです。
しかし今はどうでしょう。効率化がどんどん進んだ結果、人海戦術でこなす仕事というのはかなり少なくなり、一人ひとりの担当する仕事はその人だけがやっているようになっています。また、多くの仕事はPCの中で進んでいくので、上司からみると考え事をしているのか、ぼ~っとしているのかも判断つきかねたりします。さらには部下の方が使途後の内容には詳しかったりします。さらにはIT業界で特徴的ですが客先常駐といって職場が上司とは異なるということもあります。また今後はリモートワークが進むものと思います。営業の現場では会社に顔を出すのは月に1回ということも珍しくはないようです。こうなると「能力」や「勤務態度」を上司が把握できるのかということがクローズアップされてくることになります。
こうして情報不足な中で人物評価をするとどうしても憶測部分が増えるので、馬が合うかどうかということが影響してしまいます。このとき、行動特性評価のように「あくまでも行動、言動について」ということであればよいのですが、人物そのものを評価しているということになると、悪い評価を植えたときに人格そのものを否定されたかのように受けとめることになりかねません。そうした面での配慮をしようとすると、勤務態度評価ではどのような行動、言動をみているのか、具体化していくことが必要です。
悪影響を引き起こさないような配慮
もうひとつ勤務態度評価で留意したいのは「積極性」や「協調性」に注目しすぎることはコンプライアンス上の課題を発生しやすくするということです。たとえば積極性。仕事に熱心でどんどん取り組むのは良いけれど、それは就業時間内にされるべきことです。しかしこれを勘違いして「残業してでも頑張っている。積極的だ」とするケースが散見されるのです。高度成長期はそれでよかったのかもしれませんが、今は違います。「協調性」はより危ういかもしれません。「私たちは部門一体となって仕事をしている。この案件で成果を挙げるにはこの取引方法しかない。この一年をこれで乗り切れば来年にはこの事業は花開くことになる。その時までのことだ。なぁ、我々はチームではないか」という上司の下でこの「協調性」が強いられると、「いや、それはまずいですよね・・・」ということを言えなくなってしまうのです。そうしたときのために内部通報制度はあるとはいえ、健全な組織という意味であればその場で指摘されるべきです。しかし定義が広すぎるとこうした誤用ともいえることも発生しやすくなります。