4-1)評価とは何か

評価-会社によっては「考課」(あるいは人事考課)、「査定」などいろいろな呼び方があります。一つ一つの言葉には由来があり、設定した人の思い入れがありますから、呼び方による違いはありますが、「世の中でそう呼んでいるから」というところも少なくなく、乱暴ではありますが、ここでは「評価」と呼んでおきます(個人的には「考課」を用いることが多いです)。

評価とは何か?

評価は期間中の活動や貢献の程度を測定して、それを処遇に反映させるためのものです。
簡単にいうとそれだけなのですが、どのように測定するかという方法論は多様です。ただ、方法論を検討する前にやっておかなくてはならないのは目的論、つまりなんのために評価をするのかということです。
最も根源的な目的は「経営理念を実現する」ということです。短期的には今期の経営計画あるいは事業計画を実現するために評価があるということです。もう少しかみ砕いていうなら、評価を行うことでメンバーの意識や行動を集中させ、経営理念あるいは経営計画の実現をより確実なものとしていくということです。極言すれば、それがなくても経営理念や経営計画の実現が確かなものになるのであれば評価は不要ともいえます。逆に、評価をすることが経営理念や経営計画の実現を阻害するということになるのであれば、それが先進的であったり工夫されているものであったり、あるいはメンバーが気に入っているものであって、かえってない方がよいということになります。
例えば、世の中に存在するすべての企業に評価制度があるわけではありません。「うちはメンバー全員で取り組んでいて一人ひとりの貢献度なんて個別に切り分けられるものではない。互いにフォローし合っていくところが、お客様のニーズに応えられる原動力であって、だれがそれをやったのかということをいちいち取り出して評価をしたり、それを評価表とかにまとめたり、全体で調整したりということをする時間をとるよりも、メンバー間の相互理解を深め、一体感を高めた方がよい」という考え方もあります。評価をしないということは、処遇のうちそれを活用した部分はないということになりますから、評価に応じた昇給だとか賞与支給というのはないことになります。しかし、「給与は勤続年数に応じて昇給、賞与は部門の貢献利益を頭割りする」といった方式であればそれはそれで人事制度としては成立します。そしてこの方式で「組織が一体となってお客様のニーズに応える」という組織であり続けられるのであれば、「評価しない」という評価制度でも大丈夫です。
一方、ある時代に流行した「成果主義人事制度」では「頑張った人に高い報酬を」ということで「目標」を設定してその「達成度」を評価し、「年俸」(実態としては賞与)に結びつけるという方法が採用されました。「何をやっているのか分からないけれど、勤続が長い(年齢が高い)からといって報酬水準が高いのはいかがなものか」という場合に、「何をやっているのか」を明らかにするという意味では「成果」に着目するということは大いに意味はありましたが、それが「明らかであるということは数字で語られなければならない」だとか、「自分で立てた目標なんだから、未達だということは報酬が下がっても仕方ないよね」だとか、「達成度が高い方がいいんだったら、目標は低い方が得じゃね?」だとか、妙な方向に話が進んでしまい、結果的に組織力が低下したり、コプライアンスに抵触するようなことでも「分からなければ良し」という風潮を醸成したりということになってしまったケースもあります。結局は経営理念や経営計画の実現には寄与しなかったわけで、評価制度としては「よくない」ということになります(ただ、こうしたケースの多くは方法論、つまり評価制度に関する議論が未成熟で、運用上の課題も多かったという点も考慮すべきです)

優れた評価制度があるわけではありません。その組織のある状態(つまりその会社の経営理念やその時の経営計画)に即した評価制度があるということです。「他社はどうしているのか」は参考にはなりますが、結局は自社で選択しなければなりません。そしてその選択こそが、自社の組織としてのありよう(あり方)を決めることになります。
その意味では、「現状に合った評価制度」を整えるに当たっては、今の現実をどう汲み取るかという観点からではなく、将来、少なくとも少し先の将来を引き寄せ、実現するためにはどのような制度であるべきかを考える必要があります。

評価制度が備える機能

では、評価制度にはどのような機能が期待できるのでしょうか?
概ね以下に上げるような4つの機能を果たすことが期待できますが、逆にいえばこうした面で評価制度を役立てられるか、あるいはこうした機能を持たせられているかを設計上は確認しておくことが欠かせません。また運用面ではこうした機能がどれだけ発揮できているかを検証することが重要であるということになります。

経営からのメッセージツール

冒頭で、評価は経営理念や経営計画を実現するためのものと説明しました。
基本的に「評価項目」として取り上げていること、そこに記されていることを行動あるいは実現するとよい処遇が得られるということは、いわゆる強化子として作用することが期待できます。結果的にその行動や言動がより定着する、つまりその組織にとって「望ましいこと」が定着していくことになります。
経営理念は経営計画とは異なり、具体的な行動を示すのではなく考え方であることがほとんどです。朝礼などでこうした考え方を唱和する光景がありますが、そうしたことで浸透、定着を図るのも一つの方法ですが、評価に盛り込むと、どの様な「価値」を実現しようとしているのかを少なくとも半年に一度は社員に語りかけることになります。さらに、各職場で具体的にはどうするのかを明確にしておかないと測定できないので、その際に「じゃぁ今期はどうするかね」という話にも及びやすくなります。考えることで理解が深まるのです。さらに評価に合わせてきちんとフィードバック面談も実施していればより行動変容に結びつけやすくなります

育成のためのツール

経営理念示されている「価値」の実現のために、あるいは経営計画を実現するために管理職がメンバーに働きかけるためのツールが評価制度であり、評価項目といえます。あることを管理職が実行しようとした場合に、なぜそれをするのかという背景になるもの、理由になるものが経営理念や経営計画ですが、それを具体的に示し、説明するためのツールとして評価項目や評価基準などがあるのです。
そしてこれらは当面の評価基準であると同時に将来どのように評価されるのかということを示すことにもなります。主任や課長の評価基準とは、今後主任になったら、課長になったらどのようなことが求められるのかということを知る手がかりになるということです。そこで、管理職としてはそのような視点でメンバーに評価基準を説明することで、中長期の能力開発のテーマを示すことができるようになります。
もちろん短期の、つまり当面の評価の結果は、現時点での行動、言動の是非を示しているわけですから、これについてフィードバックをすることで改善への取り組みを促すこともできます。その意味では、「何を評価されているか分からない」「結果がどうだったかも分からない」-ということだと、いかにきちんと評価していたとしても、本人には伝わっていないので活用の場面を失っているということになります。

動機付けのツール

評価の結果は月例給や賞与といった報酬システムと連動させることで直接的なドライバーとすることができるようになります。ただし留意しなければならないのは、これらは「外的報酬」であるということです。「よし、もう少し頑張ってみよう」と本人が思う「動機付け」には、こうした「頑張ったらご褒美に○○してあげる」という外的な動機付けと、当人が「これは面白いな」と思ってもっとやってみようと考える内発な動機付けがあると言われています。
それぞれの詳細は「動機付け」や「モチベーション」に関する書籍に譲るとして、外発的動機付けは、徐々に効果が薄れる傾向があり、さらにはそれがなくなるとかえって行動しなくなるという特徴があります。徐々に薄れる効果に対応するために、報酬部分をダイナミックに反映させるようになることが多く、それがかえって極端な行動に走らせてしまうことになります。そのけっか評価の対象から外すと「今までは貰えていたものが貰えなくなった」ということで辞めてしまいます。「評価+報酬」の組み合わせはは効果的ですが、そればかりに頼っていては危険です。
もう一方の内発的動機付けですが、こちらは評価制度と無縁かというとそうとは限りません。例えば何に取り組むのかということを自身で考え、決められるようにしておくことがあります。これを管理職と共有しておけば、その実現のために必要なサポートを管理職が行うことができるようになります。そうして達成された結果は当人がこの期間中に成し遂げた成果なのですから、評価として汲み取ることもできるようになります。自身の関心事として取り組んだ結果が、評価にも取り上げられるということです。結局は評価して報酬等の処遇に反映するなら同じではないか--という指摘もありそうですが、評価のための目標を設定するのと、成し遂げた結果を評価として汲み取るのは大きく違います。「目的は手段を正当化する」という言い回しがありますが、目的(「良い評価を得るため」か「自身の成長課題をクリアするため」か)が異なるということが、同じように見える手段でも、その内実を変えてしまうものなのです。

ノミネートのためのツール

ここまでのところ、評価については短期的なものを中心に説明してきています。しかし評価には中長期的な側面も当然あります。今期どのような貢献をしたのか、どのような行動言動だったのか~これらはどちらかというと過去の事象を取りまとめたものです。しかし、評価には将来予測の面もあります。
例えば管理職への登用。管理職はその部門での経験が長かったり、担当する職務の習熟が高く結果を出せている人を任命することが多いのですが、「名選手必ずしも名監督ならず」という言い回しもあるように、プレーヤーとして優れていることとマネジャーとして優れているということは異なっています。仕事の内容が違っているのですから当然のことです。では、それなのになぜいいプレーヤーをマネジャーにしてしまうのか? 
それは他に決め手がないからということが実態ではないでしょうか。少なくとも担当している仕事ができるということは、仕事の勘所だけは分かっているといえそうですから、あまり詳しくない人をマネジャーにするよりは良さそうです。しかし実際には、担当する仕事が出てきていてもそれを他のメンバーに指導することや、自分以外のメンバーを率いてチームとしてまとめるという仕事も含まれます。ということは、こうしたこと、つまり管理職になってから新たに担当する職務を予めやってもらっておくか、それに類することを担当してもらった時にどうであったかを参考すればよいということになります。こうしたことを元に管理職に任命する、将来を予測するというのも評価の中には含まれることになります。
もちろん、将来予測ですから、今担当している仕事がどの程度できているかということと必ずしも一致しないということになります。着眼点も異なりますし、当然評価基準も異なります。つまり評価の内容も現在の働きぶりを確認する評価とは異なるということです。現時点での評価と次期幹部、次期経営層を抜擢、育成するための判断基準は峻別して考えることは欠かせません。
とはいえあくまでも将来予測でしかないということも気に留めておく必要があります。「立場が人を育てる」ともいいます。 やっているうちに理解が深まってマネジャーとして開花することもあります。そのためには現在の行動言動についてのフィードバックを続けることが大切です。
このあたり「キャリア開発24の扉~組織・仕事・人・こころを考える必携ガイド」(生産性出版)の中の図9「自己・他者評価(現在/未来)」に関する説明も参考になると思います。