1)アイランドモデルとは何か

会社の中には島がある

アイランドモデルでは、社内にある様々な役割を「島」と捉えます。
組織のメンバーはいずれかの島に住んで、その島に割り当てられた職務の遂行を求められ、その島ごとの処遇を受けることになります。 その処遇はその島の仕事に見合っているものに設定されます。賃金の水準だけでなく、勤務時間や勤務場所、活動の形態などの働き方も含まれますし、仕事に必要な知識や経験、体力の程度も関係してきます。それぞれの島にはその島なりの「生活」があると考えるとよいかもしれません。

島の生活を楽しむ、選ぶ

働き方という意味では勤務時間がはっきりしていて残業もないというところもあれば、フレックスタイムなので個人に任されているけれどその分期間内の成果は問われるというところもあるでしょう。毎日同じ勤務場所という島の暮らしもあれば、直行直帰でどのように動くかは任されているというのもあります。その役割に合わせてということです。
役割の内容もあまり変わらず経験を積み重ねることでより良いものを形にすることができるようになることを求められるものもあれば、技術革新などがあってどんどん新しいことに取り組めるというところもあります。一人でやっていくことが前提の役割もあれば、チームで活動するというのもあります。
こうした違いがありますから、人それぞれに住みやすい島もあれば居心地の悪い島もあるわけです。気に入った島、つまりその島の生活が自分に合っているようであればずっとそこにいても構いません。違うなと思えば変わってもよいのです。変わるきっかけもさまざまです。興味関心の領域が変わったということもあるでしょうし、 たとえば育児や介護などの理由で勤務時間に制約が出てきたとかもう少し賃金水準を高くする必要があるといったこともあるでしょう。そうした場合はキャリア面談や自己申告書などを用いて上司と相談するということになります。
会社、上司にしてみれば、その島が気に入ってやってくれているのですから、あとは成果を出せるように指導したり、環境を整えたりすればよいということになります。基本的に本人が望んでいることなのですから、求める役割をきちんと果たしてくれさえすれば、まさに適材適所の状態といえるわけです。担当している仕事と処遇のバランスが適正であれば、年齢などを問う必要はありません。その意味では「定年」も不要になります。
ただし、どの島にも定員があります。たとえば当然のことながら社長島の定員は一人です。なので行きたい島に必ず行けるというわけではありませんし、居たければいつまで居てもいいよといってもより適切な人が現れればそちらの人にやってもらうということも出てきます。また人気のある島の場合は入島制限がかかったり、場合によっては審査があることもあるでしょう。個人としてはどうしてもその島に行きたいのであれば、準備をしていくしかありません。逆に既に住人となっているから安心というわけではなく、常に住み手としてブラッシュアップしておくことが必要になります。
また住み手のない島も出てきます。とすれば会社としては人気のある島よりも、人気はいないけれど誰かにいてもらわなければならない島の方の住み心地をよくすることを考えなければなりません。賃金水準を改善するのも方策の一つですし、勤務形態などを改善するというのも一つの方法です。あくまでも島別です。全社一斉に合わせる必要はありません。

管理職も一つの島

同じ部署に所属であっても役割が異なれば違う島になります。部や課、係、グループという括り方とは異なります。つまりアイランドモデルで示す役割マップは「組織図」とは異なるものになります。
その最たる例が「管理職」の役割でしょう。部署単位ではなく役割単位ですから、管理職位も一つの役割、島となります。組織図の場合、管理職は上に書かれることが多く、組織を取りまとめる「上位」の人というイメージになりますが、アイランドモデルでは、組織目標の達成に向けてメンバーに指示命令を出すという役割に過ぎません。管理職はメンバーより格が上なわけではなく、あくまでも指示命令を出す役割と受ける役割の違いでしかありません。管理職がメンバーよりも「格が上」だったり「偉い」というわけではないのです。

なぜこの点を強調するかというと
①管理職以外に道はないと思っていてそれが負担に感じている人の中には、管理職になるということが「人の上に立つこと」であり、それが負担になっているケースが少なくないからです。管理職とメンバーの関係はさまざまなリーダーシップ論で述べられているようにからな寿司も上下関係ではないのですが、組織図のイメージもあって払拭できていないことが多いように見受けられます。いずれも「役割」とみることでフラットな関係であることをより強くイメージできると考えているからです。

②一方で、管理職になったとたんに権限の虜になってしまう人も見受けられます。マネジメントを遂行する上で必要な権限が管理職には付与されます。しかしこの権限は「メンバーを意のままに扱ってよい」というものではありませんし、ましてや管理職が人間的に偉いといっているわけでもありません。パワーハラスメントを起こしてしまう人の中にはこの辺りの区分がついていない人が見受けられます。上下関係ではなくフラットな横の関係であることを意識づけることが、こうした思い違いを防ぐことになると考えているからです

管理職を目指さなければならないというわけでもありません。ほかの島を目指しても良いのです。そんなことをすると、「最近は管理職になろうとする若手が少ないのに大丈夫なのか」と心配する向きもあるかもしれません。
例えばなりたくないという人の中には「見合わないから」という理由の人もいます。もしそうなら管理職島の生活を少しリッチなものにするという考え方もあります。また、さらにその先をイメージしやすくすることも大切です。特にラダーモデルの場合、管理職の階層を上がるという道筋は、必然的により激しい競争に身を置いていくことになることを必然的に意味しています。管理職の島も「課長」の島と「部長」の島は違います。課長島に住み続けるということも有りです、一定期間は管理職島にいるものの、その後は再び担当者として何らかの島に移っていくというキャリアも有りだし、特に後者の場合は「降格」なのではなく、意味のある選択肢の一つとして認識できるようにしておくことも重要です。それを示すにはラダーモデルではなくアイランドモデルであることが欠かせません。

アイランドモデルで考えることのメリット

キャリアパスがより具体的に

まずメンバーにとって社内でキャリア・パスを考えるとはどういうことか、具体的に何をすれよいかが分かりやすくなります。
多くのメンバーは自分の将来像をきちんと描けていません。描けていないと目先の出来事に振り回されたり、自分はどんなことを学習しなければならないかが分からないので、不安を感じたり不満に思ったりします。またこうしたことがストレス耐性の低さとして表れます。
 ではなぜ将来像が描けないのでしょうか? それは組織が示せていないからです。多くの組織が示すのは管理職の階段を上るラダーモデルだけです。しかし、それしかないとかなり狭き門であることが分かります。何せ、管理職のポストは限られているからです。アイランドモデルは社内にある全ての役割を示した、ある種の地図のようなものです。これに手にすることで、どのように島を渡り歩いていくのかというプランが描けるようになります。特に管理職以外のプランが見えるようになることが重要です。その中から最終的に目指す島、あるいは少なくとも次に目指したい島が見えればその島に行くにはどうすればよいか、何を身に着ける必要があるかを考えられるようになります。、一度にそこまでたどり着けなさそうなら、どのようなルートをたどっていけばよいのか-という発想を持つこともできます。

モデルツアーとしてのキャリアパス

アイランドモデルをつくってみると、なんとなく一定のルートがあることに気づきます。あたかも観光ルートのように、多くの人が歩むルートです。これがモデル・キャリアパスです。
新入社員の場合、急に海図を示されてもその全容をイメージすることができなくて、具体的にこれから何をすればよいかが分からないということが起きますが、モデルがあることで取りかかりやすくなります。
モデルに頼らなくても、自身で考えることも当然できます。自分のキャリアを考えるということの一側面は、そうしたプランを考えるということです。そのようなことを個人が勝手に考えても、組織としては全てに対応できないのではないかと考える人事の方もいるでしょう。しかし本当に適材適所をやっていこうとするなら、能力のある人をその役割に付けるだけでは不十分で、なにより「行きたい」と思っている人の中から選任することが必要です。その方が「できれば避けたい」と思っている人よりもより大きな成果をもたらすからです。
また島の定員があることが示されていれば、行きたいと思ったからといってすぐにそうなるわけではないことも分かります。その際、それぞれの島の職務内容だけでなく、どのような知識や経験、場合によっては資格が必要なのかということが明示されていれば、それを目安にメンバー自ら活動していくことができるようになります。
「うちのメンバーは自ら学ぼうとしない」とこぼす管理職もいますが、そもそも自己啓発に取り組むには、その目的や意味を本人が納得しておくことが欠かせません。島に関する「職務記述」は将来を見渡すための情報であり、それが示されればこそ、メンバーは自分から動き始めることができるのです。もちろん、それは必要条件であってそれがあれば十分という訳ではありません。
経営理念や経営計画をはじめとする情報を会社から(上司を通じて)は十分に伝えられていることが大切です。また、当面のことだけでなく中長期のプランを考えるだけの方法、そして時間を提供しておくことも重要でしょう。動き始めるにはそのための原動力や方向性が欠かせないからです。

経営戦略から組織展開、共有の徹底

キャリア・アイランドの配置、定員や住み心地(役割の中身と処遇)は経営戦略に基づいて決定されます。経営戦略を達成するために組織内にはどのような役割が必要なのかを洗い出し、布陣を決定するのです。
これまで経営計画やそれに基づく組織戦略は組織図と部署名という「箱物」ですまされてはいなかったでしょうか? これを内実のある「役割名」で行うのです。
そして組織のメンバーが担う職務記述はこれに基づいて設定されます。事業計画が変われば職務記述の内容も変わることになります。事業計画は毎年変わりますからそれに応じて職務記述の内容も変わります。だからといって毎年職務記述を作り直さなければならないというわけではありません。根幹となる経営理念や経営計画(特に中期計画)はそれほど大きく変わるわけではありません。したがって多くの職務記述は内容を確認してみるだけで終わるでしょう。
中期計画が変わるなどして事業計画が大きく変われば役割記述も大きく変更することになります。この辺りはきちんとメリハリをつける必要があります。「それは面倒」という捉え方もあるかもしれません。しかし、見直しをしなければ旧態依然とした行動をメンバーに求めるということになります。事業計画を大きく変更するというのはやり方や考え方を変えようということなのですから、これまでの通りの行動、言動ではよろしくないということなのです。その意味で、職務記述を変更することで新しい考え方や行動を周知するということは効果的です。
この作業をしていると、総務系の役割のようにいつでもある役割と、新規事業に関連するプロジェクトのように戦略的、短期的に設定される役割が明らかになります。また必要でなくなる役割も出てきます。結果的に常に会社の中にある組織が必要かつ最低限の役割に絞り込まれることにもなります。
また、各人が担当する役割の内容がブラッシュアップされるので、人事考課においてはその内容についての充足度合いをみればよいということになります。なかでも重要度の高いものについて、当人の創意工夫が発揮されるように重点化して取り組んでもらおうとするならば、目標による管理(MBO:Management By Objectives through self-controle)を進めて行くことが適当でしょう。