3)なぜアイランドモデルか?

モデルは機能しているか

ある時代においては有効だったモデルが、いつまでも効果的であるとは限りません。にも記したようにラダーモデルはよい面もある一方ではしごを上れない(上りたくない)人を生み出します。かつてはそうした人をも包含するおおらかさを持って組織は成り立っていました。
これは筆者の推測ですが、特に日本においては「一億総中流」意識がありましたから、会社内での序列があったとしても、そのことが生活の中でそれほど大きくは意識されなくてもすんだのでしょう。社内では管理職ではない人もたくさんいましたし、「社員の一体感」「全社一丸」といった「大家族主義経営」のある種の良さの影に隠れていました。また、経済が成長していたので、他者と比較した時にいろいろあったとしても、自分自身についてだけ見れば昨年よりは今年、そして今年よりは来年は良くなっていた、よくなっていくだろうという雰囲気があったので、それはそれで満足できていたのだと思います。

しかし、経済が停滞したこの四半世紀の間、ずっと足踏みをさせられたままの層ができていたことが表面化してきています。はしごを上らない限りは賃金はよくならないというシステムの本質が目の前に大きく見えてきます。そして大量採用ではなくなり、職場に人数も減ってきて、「自分とおなじような人」が周りにはいなくなり差が目につくようになります。なにより、経済が停滞しているので、はしごを上らない限りは将来に向けての展望が開けなくなってしまったのです。となると、誰かがはしごを上るとその一方で上れない人を生むという面に目を背けるわけにはいかなくなるのです。こうしてラダーモデルのネガティブな側面が表面化するようになります。
ラダーモデルが本質的によくないわけではありません。ただ、このモデルだけでキャリア、キャリア開発を考えることに限界があるのです。

モデルは考え方

キャリア開発の考え方、モデルが変われば、人事制度も変わります。制度そのものが変わるというよりは、設計思想が変わるといった方がよいでしょう。ラダーモデルを基本思想にすれば、ラダーの高さを示すものを「等級」として、それに応じた評価や給与、賞与にするということになります。モデルが変われば等級の基準も変わります。そうすれば評価や処遇の内容も変わります。ただ、それらはまったく別のものになるというわけではありません。見かけは同じだったりします。仕組みは同じでも、運用の考え方が変わるということです

逆に運用、つまり仕組みを適用する際の判断基準が変わらなければ、制度は変わっても結局は元のままです。鳴り物入りで制度改定はしたけれど、結局会社は(組織風土は)変わらなかったということがあるのはこのためです

では、なぜアイランドモデルなのか

アイランドモデルは、ラダーモデルが上下/垂直の動きを基本にしているのに対して、平面の動きを前提としているところが最も大きな違いです。上下だけでなく左右の移動(異動)であれば、今でもやっているではないかという指摘もあるでしょう。それはその通りです。ただ、そうしたいわゆるジョブローテーションを実施する目的が「さまざまな部署を経験させることで総合職としての力をつけ、管理職層に登用する」という点にあることが多く、これはとりもなおさずラダーモデルを前提としていることになります。
アイランドモデルで考える横への移動は必ずしも総合的な経験をさせるためではなく、その役割や仕事を担うためのものです。ですから移動した先が気に入ってずっとそこにいたとしても、ラダーモデルのような「停滞」といった意味は持ちません。
「その程度の違い?」かもしれませんが、モデルはあくまでも考え方です。ラダーモデルを前提としない考え方に基づいて検討することで、人事制度の仕組みや運用、キャリアの考え方は変わってきます。そして何より重要なのは「ラダーモデルではないモデル」では、ラダーモデルから外れられないということです。例としてはよくないかもしれませんが、「アンチ〇〇ファン」(○○の中は多くの場合ジャイアンツが入るようです)は、アンチであることを語ろうとするあまりどうしても〇〇のことを引き合いに出さなくてはならなくなります。「反〇〇主義」も同様です。「○○ではない」ものを考えるためには、いったん○○を置いて考えられるように、別のモデルを想定する必要があるのです。
もちろん何でもよいわけではなく、そのモデルも意味のある、効果が見込めるものでなければ、検討の価値がありません。アイランドモデルはラダーモデルではないものを語るために作り上げたものですが、これを軸にキャリアや人事制度を考えることが十分にできるものです。

二択ではない

とはいえ留意して起きたいのは、「ラダー」or「アイランド」の二択ではない、どちらかが正しくて、どちらかが間違っているというものではないということです。
どちらかが向いている業種、業態、職務、組織風土(組織文化)がある-つまりケースバイケースということですし、筆者の経験ではむしろハイブリッド-同じ会社内でも使い分けたり共存させたりする方が、それぞれの特長をうまく引き出せるようです。