旅先案内人としてのキャリアカウンセラー

どこかに旅に行きたい-旅に行くのが決まったら、どうやって行くのかを考え、交通手段を確保し、旅館を手配します。連れ立っていった方が楽しければ友人を誘ってみたりするかもしれません。費用がかさみそうであれば貯金を始めてみたり、現地語を用いる必要があるなと考えれば語学の勉強を始めたりするでしょう。
キャリア開発でも同様です。「あの仕事に就きたい」とか「あの会社に入りたい」とか「あんな働き方をしたい」(たとえば9時から17時までだけれど「2勤1休」で、これに合わせて有休を取れるので年に3回は9日間の連休がとれて‥‥といったような)といったことが決まれば、そうしたことを実現するための準備に入っていくことでしょう。
どうしたらその仕事に就けるのか、どうしたらその会社には入れるのか--そもそもそういう仕事はあるのか、募集しているのか、必要な知識・スキル・経験はどのようなものだろうか、処遇はどうなっているのだろうか--そんなことを、その会社や求人紹介サイトなどのWEB情報を収集したり、知っている人にたずねたりするでしょう。

どこを調べればいいか分からない

「かつて映画で見た夜の砂漠、月の中の砂丘を見てみたい。けれど、そんなところどこにあるんだろう。映画の名前も覚えていないし」。こんなふうに、どこをどう調べればいいのか分からないということもあります。
そうした場合に心強いのが専門家です。さまざまな専門家がいます。「夜の砂漠の月景色」が出てくる映画のことを映画に詳しい友人に聞いてみるでしょう。あるいは旅行代理店の人や、ツアーコンダクターに、情景を説明してみることで目的地がはっきりしてくることもあるでしょう。映画そのものの景色ではないけれど、ほぼ似たようなところが分かるかもしれません。
さらにそこに行くにはどうすれば良いのかも教えてもらえそうです。その国に行くのにビザは必要なのか、世情は安定しているのか、宿泊や交通ルートはどう確保するのか、その費用はどのくらいか。そして何より、そうした景色を見るのに最適の季節はいつなのか。そして、ついでに見たり、味わったりすると良いことは‥‥

仕事の探索や求職活動にもさまざまな専門家がいます。例えば「英語力とこれまでの経理での経験を活かして、国際会計基準に沿った業績管理の仕事がしたいのだけれど」という要望があれば、それを満たす仕事はどこにあるのかということについては転職を支援する会社のキャリアコンサルタントが答えてくれるでしょう。
ここまで具体的になっていなくても、これまでの経験や将来に向けた希望をキャリアカウンセラーやキャリアコンサルタントと話していくことでより明確化してくるということもあります。

やりたい仕事がはっきりしていなくても

旅行でいえば、もっと曖昧な目的の旅行もあります。「疲れた‥‥。どっかでぼ~っとしたい。魂の洗濯をしたい」とか、「驚くような非日常的な体験をしてみたい」といったようなものです。こうなってくると本当に何を調べればよいのか、人に尋ねるといってもだれに声をかければ、どう尋ねればよいのかさえ分からなかったりします。

キャリアにおいても同様です。「なんだかなぁ」とは思うものの何が「なんだかなぁ」なのかが分からなかったり、「どうしたいのか」といわれてもその「どう」というのが分からない-ということはしばしあることです。不満があるわけではないけれど、これでいいのかと思うとそうは思えないといった状況です。
明確に不満足であってもじゃぁそれをどう解消したいか、そしてどこへ向かいたいかというと、それをなかなか考えられないということもあるでしょう。考えられないというのは考えることができないというのもありますが、そのための気持ちの余裕というか、時間がないというのもあったりします。
逆に、今の仕事には満足しているのだけれど、本当にこのままでいいのかと考えると不安というのもあります。「今の仕事が向いていると思うし、やってて充足感もあるのだけれど、周囲の人はどんどん次の職場へと異動していっていて、自分だけが取り残されているように感じられてしまって」といったような場合です。
旅行もそうですが、こうした曖昧な状態の時は話をしながら整理してみるのが効果的です。自分の頭の中だけで考えていると堂々巡りしてしまうからです。旅行の場合は先の旅行代理店やツアーコンダクターの方ですし、キャリアの領域ではキャリアカウンセラーやキャリアコンサルタントです。

島を案内する

特に社内での旅の目的地(キャリアゴール)を探すときには、社外のキャリアカウンセラーだけでなく、社内事情をよく知っている社内のキャリアカウンセラーにも相談するのは効果的です。ここでいう社内のキャリアカウンセラーとは「社員のキャリアカウンセラー」と「会社で儲けているキャリア相談室のキャリアカウンセラー」の両方を指しています。
こうした社内のキャリアカウンセラーは、どこの部署ではどんな仕事をしているのか、会社はどのような経営戦略を描いていてそれが将来の組織や業務内容にどのように影響しそうかということを知っています。ですから「こんな感じのことがしたい」という曖昧な内容でも「だったら〇〇部門の△△という仕事は? どんな内容なのか担当している人と話してみますか?」といったように、より具体化しやすくなりますし、具体的なアクションにもつなげやすくなります。アクションという意味では、例えば自己申告制度など社内にどんな制度があって、どのように利用すると良いかといった情報にも詳しいですから心強いでしょう。
もちろん、社内のキャリアカウンセラーにも守秘義務はあります。他の部門の人の話を聞くにしても、「今の部署に不満があるから聞いてみたい」といったことが伝わらないようにするなど、専門家としての当然の配慮をしてくれます。この辺りは、職場の上司や友人と相談するのとはひと味異なるといえるでしょう。