決めてから行くか、行きながら決めるか
個人にとってのキャリア開発の目的と方法
将来何を目指すのか-そのことが明確な人はそれほどはいないのではないでしょうか?
むしろ、そもそも自分がどうなれるのか、そんな先のことは予想がつかないと思っていらっしゃ方も多いかと思います。一般的に、キャリアを考えるというと「将来何になりたいか」を考え、「そのために何をすべきか」を洗い出し、それを具体化し、取り組めるようにするというのが多いと思います。これはこれなりに意味はありますが、「将来何になりたいか」(つまりキャリアゴール)が分からない限り先に進めないことになってしまいます。
旅の目的地を決められますか
ところが、現実にはキャリアゴールというのはなかなか設定しづらいものです。というのも、ゴールとして設定できるものは、必然的に自分の知っているものに限られるからです。未知のものをゴールに設定することはできません。旅も同様です。「知らないところにいきたい」というのは、知っているところを除外しているだけで具体的に決めたことにはなりません。
しかし、知っているものは限られています。そもそも自分の知見の及ぶ範囲が限られているということもありますし、後から出てくるということもあります。旅でいえば、自分は知らなかったけれど友だちが「東欧に○○という地域があってね、これがいいんだよ」といわれてその地域のことを調べはじめて「なんと好きだった作曲家の生誕地ではないか、これはいかねば」と思ったりすることもあります。さらに、後から湧いて出てくるというのもあります。例えば旅行の目的地。名所旧跡であれば端からそこにあるものが多いのですが、新しいスポットというのも出来上がってきます。アミューズメントパークなどができるというのもありますし、地元の人にとっては当たり前のことなので注目されていなかったが、外部の視点で紹介されて脚光を浴びるというのもあります。仕事でいえばYoutubeerやtiktokerでしょうか。Youtubeやtiktokというサービスが生まれた後でこの世に登場した職業です。旅の目的地にしても仕事にして、こうして後から出てくるというものがあるのです。
そのように考えると、ゴールが定まらないと動き始められないという面がある一方で、ゴールを定めることが必ずしも良いとは限らないということがいえます。
行った先で見えてくるもの
またこういうことも考えられます。例えば山に登ったとき、山の向こうの情景は山頂に登ってみなければ分かりません。そこにたどり着いて始めて見えるものがあるということです。それに前もって聞かされていたとしても、目の前の山道をみた段階で「いやぁ、これは無理」と投げ出してしまうかもしれません。
キャリアについても同様です。学生の方に取ってみれば仕事について働いてみないと「働く」ということの面白さ、辛さ、充実感、せつなさというのはなかなか分かりません。
また、「管理職にはなりたくない。あんなに大変そうなのに」という声を若手から聞きますが、管理職としての仕事のダイナミズム、やりがいというのはなってみないと分からないところがあります。そして、それは全員がそう思うわけではないので、経験者から「いやぁ、管理職なんてやるもんじゃないよ」という声だけを聞いてしまうと、いよいよもって管理職にはなりたくないと思ってしまいます。その一方でかつては「なんか面倒くさそう」といっていた人が管理職になってから「なんだかね、メンバーが成長しているのをみると自分のことのように嬉しいのですよ」と話すこともあるのです。やはり、その役割に付いてみないと分からないところはあるのです。
「立場が人をつくる」という言葉もあります。その立場について、役割を担うことが人を成長させるということもあります。
このようなことを視野に入れると、キャリアゴールを設定することが、却って成長の阻害要因にさえなり得るということが分かります。
ゴールは決めるべき?
では、ゴール設定に意味はないのでしょうか?
メリットは多々あります。ゴールがあると目指すところが見えるので、さまざまな活動をすることでそれに近づいているのか、はたまた遠のいているのかが分かります。迷わないですみますし、何よりゴールに近づいているという実感が得られ、励みになります。
逆にゴールがないと、先に記したように一歩目が踏み出しづらいということのほかに、進んでいても「本当にこの方向性でいいのか」と悩んでしまうことが少なくありません。人が森の中で迷うと同じところをぐるぐると回ってしまう-という話を思い出して、自分はいつまでもこのまま成長できないのではないかと気分が落ち込んだりすることになります。
そうした意味ではゴールがあることに相応の意味はあるのです。
実は、ゴールはあるべきか、ない方がいいのか-という課題設定に間違いがあるのです。どちらでも良いのです。ゴールが見当たらないからといって慌てる必要はありませんし、ゴールが分かっていればそれでOKというわけでもないのです。例えば最終的なキャリアゴールは分からないけれど、当面のゴールとしてこういうことをやっていきたい--といったように両方を使い分ければ良い話なのです。
このことはゴールの具体性に関わる課題といえるかもしれません。うまく使い分けることが大切です。旅の目的地ははっきりしないけれどとりあえず2週間くらいでイタリアに行こうと旅立ち、現地の方の話を聞くうちに「よし明日は、ウフツィ美術館に行こう」と考えてプランニングしてチケットを購入するということがあってもよい行動があってよいわけです。
そしてその人の好み、習慣にもよるでしょう。明確な目的を持って取り組むのが好きな人もいれば、臨機応変に対処していくことの方が好きだという人もいるでしょう。自身の思考パターンや置かれている状況を考慮して決めるとよいでしょう。