第06回 キャリアコンサルタントの組織内活用

キャリア・コンサルティングを組織内で展開する上で、キャリア形成支援の専門家であるキャリア・コンサルタントをどのように活用すればよいのでしょうか?


前回キャリア・コンサルティングの内容について説明しましたが、この役割を担う人としてキャリア・コンサルタントと呼ばれる人たちがいます。

1.キャリア・コンサルタントとは?

キャリア形成支援の専門家とも言えるキャリア・コンサルタントとは、「キャリア・コンサルティングに必要な能力体系」(キャリア・コンサルティング研究会、別表)に示されている各種項目について、一定以上の講義、実技などによる学習を経て、厚生労働省が認定する能力評価試験(2006年4月時点で11機関が実施)でその習熟が確認されている人たちを指します。その数は2002年にこの認定制度が始まって以来既に4万人近くに上っています。
読者の皆さんの中にはキャリア・コンサルタントというのは知っているけれどこの人たちは専ら中高年の再就職支援やニート、フリーターといわれる若年者の就業支援を担っている人たちであって、既に組織で働いている人にはあまり関係ないのではないかと思われる方もいらっしゃるかもしれません。
確かに現状ではこうした場面で活動しているケースが目立ちます。しかし前回も説明しましたようにキャリア・コンサルティングは「労働者が、その適性や職業経験などに応じて自ら職業生活設計を行い、これに即した職業選択や職業訓練の受講などの職業能力開発を効果的に行うことができるよう、労働者の希望に応じて実施される相談」(厚生労働省第7次職業能力開発基本計画)であり、実際に就業している人のキャリア形成にも寄与するものです。
職を失っている人、なかなか職を得られない人への支援も重要ですが、組織内における個人と仕事のミスマッチを解消したり、キャリア形成における個人の方向性と組織の方向性とを上手くマッチングさせることで、働きがいをもって仕事に取り組めるようにしたり、離職者を減らすことにも大いに貢献しうるものなのです。つまりキャリア・コンサルティングは予防的な機能も、さらには人材の活性化に寄与するという積極的な意味も有していると言えます。このことが人材の活用という点で企業経営にも寄与し、だからこそ組織内でキャリア・コンサルティングを展開することに意味があるのです。

2.外部に依頼すべきか組織内で育成すべきか

ではこのようなキャリア形成支援の専門的なサービスを外部に依頼するのがよいのでしょうか? それとも組織内で育成するのがよいのでしょうか?
外部に依頼するとなると、組織内のことをきちんと理解してもらえるものだろうか? 組織内の機密が外部に流出してしまうことになるのではないだろうか? などさまざまな心配があろうかと思います。
一方、組織内でといっても、そうした専門家を育成し配置しておくだけの余裕はないという声も聞こえてきそうです。
結論から言えば、両者の特性を生かせる方法をその組織なりに探していくことが必要です。
外部のキャリア・コンサルタントを活用することのメリットは直接の利害関係がないから相談しやすいということがあるでしょう。たとえば「上司と折り合いがよくない」とか「今やっている仕事にやる気にならない」といったものは組織内の人には相談しづらいものです。
筆者も外部の人間としてキャリア・カウンセリングに臨むことがあり、このような相談を受けることは少なくありません。話している内に「話してみると細かなことに気をとられすぎていた」とか「問題と感じていること自体は、今はどうもできないけれど、その後のことを考えるとこのまま頑張った方がよいと思う」といったように、本人が納得して解決することは少なくありません。こうした悩みをそのまま抱えていることを考えれば、相談しやすい場があることの意味は大きいと言えます。
逆に、組織内の人材を活用することのメリットは、事情がよく分かっているという点にあります。組織内の仕事については内容や必要なスキルなど具体的な情報を持っているでしょうし、本人のこれからのキャリア形成を考えるときに組織内にどんな選択肢があるかということも組織の中で仕事を知っているほうが具体的に相談に応じられます。
また社内公募などといったその組織の仕組みを活用したキャリア形成について取り上げることも組織内の人の方がやりやすいかもしれません。
可能であれば、受付の段階で本人がいずれかを選べるとよいのでしょう。しかし、はじめは組織内のキャリア・コンサルタントに相談できるようにしておいて、必要に応じて外部の専門家に依頼するという方法も考えられます。

ところで、こうした仕組みを組織内に設けようとすると、人材育成の担当者としては具体的にどのように進めればよいのでしょうか? 必要性は分かっているけれどなかなかコンセンサスが得られないという悩みも耳にします。そこで次回はキャリア・コンサルティングをはじめとするキャリア形成支援策の組織内導入の方法、考え方などについて取り上げましょう。 今回から一年かけてキャリア、キャリア開発(キャリア形成)ということについて、それが組織や個人にとってどのような意味があるのか、また人材育成や能力開発に携わる方々が何を考えておくべきかを説明していきたいと思います。


この記事は中央職業能力開発協会(JAVADA)様の機関誌「能力開発21」に2006年4月から1年にわたって掲載いただいた「キャリア形成支援とキャリアコンサルティング」を再掲したものです。