第04回 CDPの具体的な内容は?

組織内で個人のキャリア形成を具体化するための仕組みであるCDP(Career Development Program、キャリア開発プログラム)として具体的にはどのようなものがあるのでしょうか?


CDPはその組織の考える「人材育成の考え方」や「個人と組織の関係」を具体化するための仕組みです。それぞれの組織に合わせて個別に検討されるべきで一般論は言えませんが次のようなものがあります。

1.個人が発信することを支える仕組み

まず個人が自らのキャリア・プランについて発信することを支援する仕組みとして社内公募制や社内FA(フリー・エージェント)制度、自己申告制度などがあります。
社内公募制度は新規事業への展開、あるいは退職者の発生などで、あるポジションを補充する必要がある時に、職務範囲や能力要件、職務経験等を示して社内で募集するものです。
社内FA制度は個人が自分の持てる能力やスキル、職務経験を公開し、その腕前を買ってくれる部署に異動できるようにする制度です。
自己申告制度は「自己申告書」に今後の長期及び短期のキャリア・プランとそれに併せて獲得したいスキルなどを記入して上司や人事部門に伝えます。平素の職務割当のほか、任免や定期異動の参考資料とされます。同じ自己申告書という名称でも家族の状態など個人的な事情を記入させたり、あるいは期中業績の自己評価をさせたりするものもあります。これらは相互理解を深めるという意味でキャリア形成支援の一環とも言えますが、趣旨は異なります。

2.職務に関わる情報の提供

個人が自分のキャリア・プランについて発信しようとするならば、その前にプランを作るに十分な情報が必要です。社内にどんな職務があるか、求められる職務技量はどのようなものかといったことが分かっている方がより妥当なプランニングができるからです。
こうした情報を提供する仕組みとして、職務記述書等で組織内職務情報をデータベースとして公開するという方法があります。職務記述書は評価や等級格付けに利用されることがほとんどですが、キャリアを考える有力な手掛かりともなります。
標準的な「研修体系」や「モデル・キャリア・パス」を示すこともあります。CDPを研修体系と捉えたことが形骸化の要因の一つと前回述べましたが、獲得すべきスキルの体系やキャリア・パスはキャリア・プラン作成の参考情報としては大いに役立ちます。
これらはキャリアの外的な側面に関わるものです。キャリア・プランを考える上では、どのようなところに働く意味を感じるのかといった個人にとっての内的な面(内的キャリア)についての自己理解を深めておくことも重要です。情報提供だけでなく、外的・内的両面から自分のキャリア展開について考えられる機会を設けておくことが必要です。

3.組織から個人への発信

組織も中長期経営計画と、その実現に向けて必要となる人材要件、育成、処遇の考え方などを「人事方針」として発信します。これらもキャリア・プラン作成の重要な参考情報です。
役員クラスで構成する「人材開発委員会」の設置も有効です。必要な人材を計画的に育成するために、人材アセスメントを行ったり、全社的な見地で人事異動案の検討を行ったりします。
本人と直接の上司で行う「キャリア面接」では、本人のキャリア・プランを基にこれからの担当職務や教育計画について検討します。人材開発委員会の検討結果も本人に伝えられます。
これとは別に、経営計画に端を発する組織からの職務上の要請と、キャリア面接でも検討された個人のキャリア・プランを前提に、ここ当面の職務として何をすべきかを上司と本人で話し合うのが「MBO面接」です。MBOとは「目標による管理(Management By Objectives)」のことで、CDPを展開する上で重要なマネジメント上の考え方です。「MBO=人事考課項目」と捉えている組織も多いようですが、それは本来の目的ではありません。

4.狭義の人事制度

評価や処遇制度・等級制度といったいわゆる「人事処遇制度(狭義の人事制度)」も当然キャリア形成に関係します。なぜなら短期的なキャリア形成上の目標が人事考課の内容に取り上られげることはありますし、処遇の水準はキャリア・プランを考える上で重要な情報の一つとなりうるからです。

5.前提となる3つの条件

これらの仕組みの根底に流れるのは「相互尊重」「相互依存」「相互選択」という「個人と組織の共生関係の前提条件」となる3つの考え方です。
相互尊重とはお互いの意思をしっかりと確認、やりとりを活発にし、尊重することを指します。相互依存とはもたれ合いではなく、よい意味でお互いに利用しあう関係です。組織は個人がいなければ業績を上げることはできませんし、個人もその組織でなければできない仕事があります。
しかしどうしても選択をしなければならない場面もあります。例えば、組織はある仕事に誰に任せるかという選択をしなければなりませんし、一方、個人はこの仕事ができないのならこの組織にいる意味がなくなってしまうからここだけは譲れないし、だめならいられないと組織を選択する場面もあります。それが相互選択であり、個人の自立と自律の前提でもあります。
CDPはこの3つの前提条件の上に成り立っている必要があります。

6.キャリア・コンサルティングの活用

相互尊重、相互依存、相互選択とはいえ、現実にはまだ組織主導の場面が多く、また一方の個人は自分のキャリアについて、特に内的な面について考えるということについて不慣れであり、意志決定、意思表明をするという点では準備不足です。そこで求められているのが、キャリア・コンサルティングです。社内の「キャリア相談室」などでうまく活用することが個人のキャリア自覚を促し、自律・自立した個人へと成長することを支援します。
次回はこのキャリア・コンサルティングとはどういった機能なのか、それが個人の成長にどう寄与するかについて説明します。


この記事は中央職業能力開発協会(JAVADA)様の機関誌「能力開発21」に2006年4月から1年にわたって掲載いただいた「キャリア形成支援とキャリアコンサルティング」を再掲したものです。