組織がキャリア開発に取り組む意味。それは、組織を引っ張り、支えていくことのできる自律・自立した社員を育成することにつながるからです。
では、自律・自立した社員とはどんな社員なのでしょうか?
また、そうした社員がなぜ求められるのでしょうか?
さらに、自律・自立した社員の育成に、なぜ「キャリア開発」が貢献するのでしょうか?
自律・自立した社員とは
自律した社員とは、自分で自分のことを考え、決めていける社員です。
自分で自分の行動に責任を持つことの出来る社員です。
ごく当たり前のことのようですしかし、自分の生き方でさえ自分で決めずにおいて、意識的・無意識的にかかわらず、「社会の物差し」や他人の評価に頼っている社会人が、実は多いのです。
たとえば、「よく勉強して、良い学校に行って、良い会社に入って・・・」という筋道。これがかつての社会の物差しでした。しかし、今やその通りにはならないことも多いということを知っている人は増えています。
「終身雇用」もそうでした。退職金を入れれば、文字通りの「終身」が保証されている、一生懸命やっていれば後は会社が何とかしてくれる-これも「社会の物差し」です。
これらは自律しているとはいえません。
「愛社精神のあらわれである」という見方もあるかもしれませんが、このように考える多くの方が、最終的には会社のせいにしています。「こんなに尽くしたのに・・・・会社は分かってくれない・・・」。
自律とは自己責任にも通じます。社会の物差し、他人の物差しではなく自分の物差しで考えられる社員が「自律」した社員です。
一方、自立とは、第三者の助けを借りずに自分で立つことをいいます。つまり、自分の意志で決められることを指します。
他者の援助を受け入れないという意味ではなく、最終的に決めるのは自分であるという認識と意志を持っていることを指します。そのために第三者と協力したり助け合ったりということは当たり前のことで、もたれ合いになっていないことが大きな違いです。
自律・自立した社員とは、お互いに相手を尊重しあいながら、自分で考え自分で決められる、そしてその結果を引き受けられる社員を指すのです。
なぜ自律・自立した社員が求められるのか
このとき求められるのは、高度成長期のような大量生産大量販売に向いた「均質な人材」ではなく、「異質」「異能」の人材です。予め出題範囲が決まっているようなテストで100点を取れる成績優秀な人よりも、自分を測るテストそのものを作り出せるような人材、他者との違いが明らかで、自分の持ち味が分かっているような人が求められるのです。
他者の物差しに振り回されることなく、自分らしくやっていくことができる人-つまり、自律・自立した人材なのです。
さらにお互いに他を尊重しながら連帯していけるのもの自律・自立した人材であって初めてできることです。そうした人を生かすことができてようやく組織は創造的に、活力あるものへと変化していけるのです。
キャリア開発がどのように貢献するのか?
そのような自律・自立した社員を育成するには、次のような環境が必要です。
1)自分の持ち味をいかせること。
2)そのためにはまず自分持ち味に気づけるような環境であること。具体的には、上司や上司の上司から、具体的なフィードバックがあること、自分のことをきちんと考えられる場が整っていること(たとえばキャリア・カウンセリングやキャリアを考えるためのワークショップ=CDW)。
3)自分持ち味をいかすための具体的な手段があること(たとえば自己申告や社内公募。あるいは上司との定期的なキャリア面接)
4)そうした段が明示されていること(仕組みが整っていて、その存在が公開されていること。またそうした制度がきちんと運用されるように人事部門が機能していること)
5)組織内での自分の成長が具体的にイメージできること(組織内での将来像を描けること)
こうした環境を整えることがすなわち組織として「キャリア開発」に取り組むということです。
そこまでする必要はあるのか? これまでで十分では?
それほど多くのことが必要なのでしょうか?
これまで取り組んできたことは間違いだったのでしょうか?
同じようなことをやってきたけれど効果はなかったではないか?
大切なのは、制度を整えることではありません。
まずは基本的な考え方、軸足をきちんと定め直すことです。
集団主義的な一括採用、一括育成から、社員一人ひとりの持ち味をどう生かしていくかへの転換です。
キーワードは「集団から個」です。
制度は仕組みの精緻さでその効果が決まるのではなく、あくまでも考え方です。
考え方が変われば制度は生き生きと復活するのです。逆に、いくら制度を変えても、考え方が変わらなければ何も変わりません。
まずは基本的な考え方を変えましょう。新しい考え方に沿って、仕組みを変更すればよいのです。
全てを一気に変えることは大きな組織にもたらします。ドラスティックに変えていくのも方法ですが、着実に少しずつ変えていくという方法も有効ですし、組織文化によってはその方が近道の場合もあります。