教育・研修に対する意識改革
前項で触れたように、将来像やそこに至る道筋を自分で決めることにより、各個人がそれに向けた活動をするようになると、それを支援することが必要になります。
この支援にはいろいろな方法がありますが、研修・教育もその一つになります。
これまでの社内研修は、一律の年齢層や職制層を集めて一斉に実施していました。自分には必要かどうか分からないが、教育部門が「参加しなさい」、あるいは上司が「行ってこい」というから参加したというのがほとんどでした。
こうした場合、何を学ぶべきが明確になっていませんから実効はあがりません。
しかし、自分のキャリア・プランが明らかになると、そのために必要な知識やスキルも明確になりますから、必然的に集合教育への取り組みも主体的になってきます。
あくまでも自分のキャリア開発を自分で考えるが故に、貴重な研修・教育の機会をいかに活用するかを考えるようになるのです。
支援方法(スタンス)の変化
個人が自らの自己成長を測ろうとするようになると、組織の支援の方法も変わります。
これまでは、管理職を育成することを前提にした研修メニューを作成し、一方的に受けさせざるを得ませんでしたが、個人の選択肢が広がる分、組織の示すメニューにも広がりを持たせることが求められます。しかし基本的にそれらを社内で全て準備することは無理です。従って、外部の教育機関をうまく活用することが必要になってきます。
その代わりに教育部門がしなければならないことは
1)本来の意味の専門職の育成
2)組織内にある知識の集約、形式知化
3)キャリア・プラン構築の支援
4)自己啓発のためのカウンセリング
専門職の教育は、専門性が高まれば高まるほど社外の教育機関には任せられなくなります。なぜなら専門性の高さとは、その組織のユニークさ、他社との違いの程度であり、一般論ではすまなくなるからです。従って、こうした問題にこそ社内の教育の専門家が当たらなければならないのです。ここを外部に任せるとは、製品やサービスの根幹を人任せにすることに等しくなります。
この点を推進するためには組織内にある暗黙知を形式知化していく作業も必要になります。
その組織特有のノウハウや知識を持っているのが本来の専門職です。それらを知っているのはその現場の人です。ですから、専門職の教育に当たったり、形式知化の核となるのはその組織の専門職自身なのです。
また、自分の進むべき方向性が分からなくなる個人も出てきます。こうした個人をそのままにしておくことは、自己成長による生産性の向上、創造性の向上に結びつかなくなりますから、タイミング良く自分の将来を考えさせることが必要になります。
このとき、自分の今後のキャリアについて納得できている方が安心して取り組めますから、自分についての理解を深め、何をやりたいのか、やれるのかを明らかに出来るような「場」の提供を行うことも効果的です。その具体活有効な方法としてCDW(キャリア開発ワークショップ)やキャリア・カウンセリングなどがあります。
こうした支援もこれからの人材開発部門が担っていくべき機能になってきます。
※キャリア開発ワークショップ・CDWは特定非営利活動法人日本キャリア・カウンセリング研究会の登録商標です。
効果3のまとめ
- 自分の将来像が分かるので、研修・教育に目的意識を持って参加するようになり、実効性が増します。
- 研修・教育部門のあり方も、プログラムの開発や実施だけでなく、自社の強みとなる専門職をどう育てていくか、あるいは社員全体のキャリア開発をどう支援していくかという、本質的な問題を検討するようになります。
- そのための方法としてキャリア開発ワークショップ・CDWの実施や、キャリアカウンセリングなどを行っていくことになります。組織の進む方向とベクトルを同じにしながら、ともに理念、目的の実現に向けて進む関係になります。