キャリアスケープの効果1
効果1個人と組織をつなぐ

 組織の理念や方針が社員に伝わらない。
 まじめに仕事をしてくれてはいるが受動的。使命感に欠いているように感じる。
 優秀な社員が定着しない。
 社員に一体感を感じられない。
 世間並みかそれ以上に報酬を支払っているはずだが、社員の不満が絶えない。
 
 組織が不安定なのは、組織のメンバーにとって、組織のベクトルと個人のベクトルに一体感を感じないからです。個人にとって、この組織に所属していることが好ましいとは思えない、感じられないところに問題があります。

 個人がその組織に帰属し続けようとする要因は3つあります。

 「報酬」=その組織で働くことで現在あるいは将来的にどれほどの報酬が得られるか
 「人的関係」=働く上での仲間の存在。人からえられる心理的な報酬ともいえる
 「仕事そのもの」=その組織でやっていくことができる仕事。今やっている仕事だけでなく、将来になうことが出来るだろう仕事も含む

 人によってどの要因に重きを置くかは異なります。
 「報酬」に重きを置く人もいれば、「人的関係」あるいは「仕事そのもの」に重きを置く人もいます。

 これらの全てが充足されているとき、人はその組織に魅力を感じ、出来るだけ長くその「場」に所属しようと思います。
 またその「場」ができるだけ長く続くように行動しようとします。つまり、組織が安定した成長を遂げられるように(going concern)しながら、自らも成長することも考えるようになります。
 また、全てとはいかなくてもどれか一つさえ充足されていれば(多くの場合、3つの中でももっとも重きを置くものですが)、その組織にとどまろうとし、またそれらの要因の満足度が上がるよう行動します。

 この3つの要因は、マズローの欲求階層説と照らし合わせて考えることもできます。
 マズローは人間の行動は、生理的欲求、安全欲求、社会的欲求、自尊欲求、自己実現欲求−のつの欲求のいずれかに起因するとしています。
 さらに5種類の欲求は、一番下位の生理的欲求から現れ、それが満たされるとより上位の欲求が現れるというように、階層をなしているとしています。
 「報酬」は、もっともベーシックな欲求である生理的欲求や安全の欲求の充足に結びつきます(ただし報酬に対して金銭的な意味ではなく、その高さを自分に対する評価と捉えている場合は自尊欲求の充足に結びつくことになりますが)。
 「人的関係」は、仲間がいる、受けれられている−という意味ですから、社会的欲求を満たすものといえます。
 「仕事そのもの」とは、仕事を通して承認されること−つまり自尊欲求や、あるいは自分らしさを仕事を通して表現したいという自己実現欲求を満たすものです。
 自己実現欲求は他の欲求とは異なる性質を持つとマズローはいいます。それは自己実現欲求は満足するところを知らないもの、満たされれば満たされるほどさらにより強く欲求を覚えるものなのだそうです。

 つまり、仕事そのものを介した「組織」と「個」の結びつきは、他の要因とは異なり、満足するとさらに充実感を求めるようになり、難しい仕事やチャレンジングな仕事を求めるようになるといえそうです。

 組織がキャリア開発に取り組み、キャリアスケープを社員に示すということは、組織と個を結びつける「仕事そのもの」を「役割」という形でわかりやすく整理するということです。
 さらにその役割は、当然、組織戦略に基づいて設定されます。

 このことは「仕事そのもの」を通して組織と結びついている個人にとっては、今の仕事が経営戦略上どのような意味があるのかが理解することが出来ます。また今後どのように自己実現を果たしていきたいかを、「役割」という言語と、「キャリアスケープ」という文脈で説明することが出来るようになります。
 平たくいうと、今の仕事が組織でどのような意味を持っているのか、将来的にはどんな役割・仕事を出来るようになるのかが分かるようになるということです。「仕事そのもの」に拘っている分、こうした点は非常に魅力的です。
 この結果、そのような組織に対しても愛着を持つようになると同時に、役割構成の段階で経営理念とベクトルあわせをしているわけですから、組織目標の実現ということに、違和感なく協力、推進することができ、さらにそれを達成することが、自己実現に結びつき、さらにより難易度の高い目標にチャレンジしようという欲求を引き出すことになります。


 組織と個を結びつける要因の一つ、「仕事そのもの」の中身、つまり役割をより明確にしたのがキャリアスケープ。
 組織の中における自分の役割を具体的に理解できるようになるので、「仕事そのもの」で組織と結びつこうとする個人にとっては、仕事を通じた自己実現をイメージしやすくなる。
 自己実現欲求は満たされるとさらに自己実現を図りたいと思うので、より面白い、難易度の高い仕事に取り組もうと思える。
 組織内の役割を示し、キャリアスケープを描くことで、個人と組織はベクトルを同じにしながら、ともに理念、目的の実現に向けて進む関係になる。