キャリアスケープの構成要素

 キャリアスケープは組織内にある「役割」と、その役割と他の役割との「関係」、そして役割の「組織上の位置付け」−で構成されます。

役割とは何か

 このうちもっとも基本になるのは「役割」です。
 「役割」とは社員ひとりが担当する標準的な職務の固まりを指します。
 「○○営業」や「××ライン管理」「人事企画」といったように、その内容を示す名称=役割呼称で呼ぶことができるでしょう。
 職務記述書(Job Description)が明確な米国に比べて、日本ではこの役割を定義することが大変困難です。決められた範囲の役割を超えてどれほど仕事をしたかを評価するような人事考課項目を採用している企業もあるように、何をしなければならないかは曖昧にしておいて、臨機応変に、周囲の他の役割と「阿吽の呼吸」でうまくやっていくことを長く求めてきたからです。
 しかし、本来は役割は一定の職務として定義されるものであり、そうした定義をしないでおいて、どれほど周辺の仕事をこなしたかを評価することは適切でしょうか? 確かに自分の仕事だけではなくほかの仕事を手伝う「気働きの良さ」を評価することは一定のメリットを生みますが、本来やらなければならないことをしっかりやっているかどうかということを評価することなく気働きばかりを評価するのは人事考課も本末転倒といわざるを得ません。
 役割を定義する方法としては以下の項目を用いると良いでしょう。
   1)役割に含まれる仕事の名前・・・「課業」=「顧客訪問レポートの作成」など
   2)その課業で要求される結果・・・「成果」
    (ここでいう成果とは予定されたアウトプットであり必ずしも数字を指してはいない)
   3)その課業を担当するに当たって必要な知識、スキル
 このほかに、利用する社員の成長を促進するために、仕事を進めていく上での勘所を記述することもあります。


組織の硬直化を招きはしないか?
 役割を定義すると、必ず頭を持ち上げてくる疑問が、「それほど細かく定義をすると、組織変更が大変になるのではないか?」「環境が変われば仕事も変わるかもしれない−課業の中身が変わることもあるだろうし、役割自体がなくなることもあるのではないか?」−というものがあります。
 こうした懸念はもっともですが、社員にきちんと仕事をさせようとすれば何をやらなければならないのかという点は常に見直しをされてしかるべきです。職能資格制度は「職能要件書」を各組織で整理しておくことを前提としていましたが、これがないがしろにされてしまったことが年功的な運用になった一つの原因です。
 本来その役割が何の目的であるのか−ということは経営戦略に基づくものです。従ってその内容の確認は毎年やって当然ともいえるものです。ここを端折るということは、経営戦略を徹底するチャンスをみすみす逃してしまうことを意味しています。
 環境が変われば仕事も変わるかもしれない。まさにその通りで、今ある役割は3年後あるかどうか分からないのです。手間ばかりかかるから止めようと考えるのも一つの思想でしょう。しかし、だからこそ毎年きちんと確認をしておくことで、これまでの惰性、慣習で続いている仕事をあぶり出すことにもなるのです。
 その仕事は本当にやる必要があるのか、求める成果はそれでよいのかを常に確認しておくことが、社員一人一人が尽力する仕事を「経営上意味のないもの」としないためのコツなのです。
 役割を定義することそのものは組織の硬直化とは一致しません。要は運用の問題です。運用が硬直化を呼ぶのであって、仕組みそのものではありません。


役割を定義することの難しさ

 役割を定義する上で難しいことは、先に述べた役割の範囲を特定することの他に、成果を見極める点にもあります。
 成果とは役割に含まれる各課業で求める結果です。結果というと「利益」「売上高」「○○率」といった数字が挙げられることが多いようです。確かに結果は数字で示される方がわかりやすく、後々人事考課をした場合ももめにくいという点では優れた方法です。しかし実際には数字だけで語れるほど世の中は簡単なものではありません。数値では表現できないような課業もありますし、なにより、短期間で数字の変化になって現れることが本当に経営戦略上求めていることがどうかという問題もあります。よくいわれることですが当面の売上高を上げようと思えば無理に取引先に納品をする「押し込み営業」でも構わないことになります。実際にはこれを防止するために翌期の返品率を反映させるなどの措置を執ります。せっかく数字で成果を明らかにしてもそれを補正するために指標を重ねていたのでは、本来何を成果として求めていたのかが分からなくなってしまいかねません。
 数字だけに拘らず、どんな状態になっていればいいのかを先に考察し、実務上成果に近づいているかどうかを把握するためにはどうすればよいかを考えることを優先すべきでしょう。その結果、場合によっては新しい指標を考案することになるかもしれません(いくつかの財務指標もそうしたいきさつで生まれています)。
 また、状態表現、つまり「このような状態にすること」ということを成果とするのであれば、そのイメージを役割を任せる側、引き受ける側できちんと確認しておく必要があります。実務上は上司と部下がすりあわせをするということになります。そうした作業は仕事を薄める上でよくやっていることですし、やっておかなければならないことです。
 先の組織の硬直化の懸念のところとかさなりますが、本当に求めているものは何なのか、その数字にどんな意味があるのかを確認するという重要な部分を手抜きしていては、どのような方策を採っても組織がうまく展開していくことはありません。目標による管理(MBO=Management By Objectives through self-control)がうまく行かないのも、同じ理由です。



構築方法その2へ続く