組織がキャリア開発を進めて行こうとするとき、いくつかの前提条件があります。
 第1は「個」と「組織」の共生関係を意識しておくこと。
 第2は個人が自己決定・自己責任出来るだけの情報公開と、仕組みの整理を進めておくことです。

 個と組織の共生関係とは、「組織」が一方的に「個」を取り扱うのでもなく、「個」が独善的に「組織」を利用するだけでもなく、お互いが「相互尊重」「相互依存」「相互選択」を了解し合っている関係です(横山哲夫「個立の時代の人材育成」を参考にしています)。
相互尊重とは互いの意志や意見、考え方にきちんと耳を傾けようとすること。

 相互依存とは、お互いにいい意味で利用し合うこと。
 たとえば、組織は「個」、つまり社員の働きなくしては業績を達成できません。一方、「個」も「組織」の中の仕事を通じてやりがいを感じたり、達成感を感じたり、自分らしさを感じています。

 さらに「相互選択」という場面を互いに想定しておくことも大切です。尊重し合おうにも、依存し合おうにも、ここから先はいずれか一方がどうしても譲れないと言う場面は当然あり得ます。
 その時には、互いが他を選択することがあるのだ−ということを前提としておこうということです。

 この「共生」関係は、すぐに実現できるものではありませんし、実現されていなけばならないというわけでもありません。ただ、両者が前提としてそういう理解をしていることが大切なのです。
 特に、相互選択−お互いが選び選ばれる関係であるということは、これまでの「終身雇用=会社優先」という発想から脱却するということでもあります。個人にすれば、居心地の良かった「大家族主義的、家父長主義的人事制度の枠組み」から離れ、「自律・自立した個人の自己決定・自己責任を前提とする人事制度の枠組み」への移行でもあります。
 自分らしいこと、自分が自分であること、自分が自分で決めること、その結果を引き受けること−それが個人に求められるようになるわけです。


 個人が自分で決め、その責任もとる−とてもシンプルな原則ですが、そのためにやっておかなければならないことがあります。
 それはそうした意志決定が出来るだけの情報を提供していること、そして意志決定の方法を理解させていることです。
 これまでの日本の組織は、担当者が変われば仕事の領域まで変わってしまうことで明らかなように、「人に仕事がついて回っている」状態です。担当する人によって仕事の中身が異なってしまいます。これでは、具体的なキャリアを考えようとしても、手がかりがつかめません。
 どのように選択をしていくかが分かるように、社内の仕事は「役割」として区分しておくと、キャリア・プランの有益な手がかりとなります。


 役割がある程度明確になると、その役割に求められる知識や技能、職務経験、必要な資格なども分かります。そういったことが分かれば、その役割を担いたいと考える個人は、いろんな方策を考えることが出来ます。キャリア・プランを具体的に立てやすくなります。研修や教育をうける意味も分かりますし、なにより前向きになります。

 さらに、役割がある程度明確になると、その処遇も明らかに出来ます。つまり職務給化することが出来るのです。職務給は日本には向かないなどの議論はありますが、年齢ではなくて担っている仕事の内容で処遇が決めることは、とてもフェアな発想です(年功的な処遇は中高年者に有利なように見えますが、結局は「生産性とのアンバランス」が顕在化することになり、早期の一方的な選択の呼び水となってしまいます。年功的な処遇は、実は、年齢的な差別を増長することになるのです)。


 そうして明らかになった役割を使って、自分の将来のキャリア展開を考えること−つまり、キャリアプランを考えることは、個人にとっては自分の将来へと広がる風景を見ていることになります。
 組織の中で眼の前に広がる役割群、言い換えればキャリアの風景、それがキャリア・スケープです。

 一方、組織としては、中長期経営計画を元に、将来、必要となるであろう経営幹部や、スペシャリストを想定し、これを示すことが出来ます。
 これが組織の示すキャリア・スケープです。社員は当然それを目指すでしょうし、魅力的なキャリア・スケープを提示することが、報酬水準を以上に、優秀な人材を引きつけ、引き留めることになります。
 なぜなら、優秀な社員ほどお金よりも、仕事のおもしろさ、仕事を通して実現する自己像の魅力の方に働きがいを感じるからです。


 役割指向型人事制度へと転換していくことで、社内のキャリアスケープはとても見やすくなります。