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キャリア開発とMBO
第9回
キャリア開発における
管理職の役割
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個人への浸透策

【質問】
 キャリア形成支援を組織内で展開する時に能力開発推進担当者ができることにも限界があるように思います。直接個人に接し、育成・指導する立場にある管理職も重要な役割を担っていると思いますが、管理職が担うべき役割にはどのようなものがありますか?

【答え】
 組織でキャリア形成に取り組むとき@経営層の理解A管理職の協力B個人の自覚−という3つの壁があることを以前説明しました。経営層を説得して組織内で展開を、というときにカギを握るのはラインの管理職です。

1.人事部門主導人事から、ラインによるマネジメントへ
 キャリア形成支援をするということは、自分が納得できる仕事人生(キャリア)を全うしようとすることを支援することです。「納得できる仕事人生」は一人一人異なりますから、支援の内容も個別のものとなります。個別対応が可能なのは本人に近い管理職しかありません。つまり管理職は、自らの仕事人生を生きているキャリア形成支援の対象である個人であると同時に、キャリア形成支援を行う組織のエージェント(代理人)として機能することが求められるのです。
 一方、多くの組織では人事のことは人事部門でという人事部門主導の元に様々なことが組み立てられ、判断されることが少なくありません。それぞれの部門で判断していたのでは全体の基準が保てない、公正さに欠くというのが理由です。しかし組織全体に関わる人事方針の決定や人事政策の企画だけでなく、異動など個別の人事案件にも介入しています。管理職が最も詳しいはずの評価までも調整と称して人事が裁定することも珍しくありません。
 しかしキャリア形成支援において管理職がエージェントとしての機能を担うのであれば、人事権を大幅に委譲する必要があります。ラインの管理職が主体となって人事を執り行う「ラインによるマネジメント」です。

2.管理職の果たすべき5つの機能
 この時、管理職が担うキャリア形成支援上の機能は大きく5つあります。
@組織の理念や中長期計画の伝達
 組織の理念や長期計画に関わる情報がないと、個人が組織の方向性を考慮したキャリア・プランを立てられません。MBO面接にも不可欠です。
A職務配分と目標設定
 面接や日常のコミュニケーションを通じて本人のキャリア・プランを把握し、組織の要請を踏まえながら、キャリア形成に役立つ職務を割り当てたり、適切な目標設定ができるよう支援します。
Bアセスメントとフィードバック
 能力や持ち味をアセスメントし、本人にフィードバックすることでより深い自己理解を促し、行動変容を促したり、内的キャリアへの気づきを促進したりします。
Cメンテナンス
 日常の業務の中では様々な出来事があり、一時的に自信を失ったり、迷ったりすることがあります。そうしたときに本人の成熟度に合わせた指示や支援をすることが求められます。どんなに優秀な社員であっても声をかけるなどの働きかけがない状態が続くとモティベーションを失っていきます。
D人材情報の発信
 メンバーの人材情報を提供し、組織が活用を図れるようにする一方で、自己申告などで表明された本人の希望を関係部署に伝えるなどして実現するように働きかけます。

3.「これ以上仕事を増やすな!」
 これらは管理職としての基本機能です。しかし組織の簡素化と称して、管理職を減らす一方で、自らもプレイヤーとして活動しながら管理職を務めるプレイング・マネジャーを増やしている組織では、職務に追われてこうした機能に手が回らなくなっています。またフレックスタイム制や在宅勤務の普及などで働き方が多様化し、顔を合わせる機会が減っていることも難しさに輪をかけています。
 この状況下で先の5つの機能の徹底を進めていこうとすると、管理職からは「また仕事を増やす気か? 人事は言うだけだからいいのだろうが、それをやる方の身にもなってくれ」という反応を引き起こしかねません。中には「そんな手間をかけなくたって、言われたとおりにさせればいいんだ」という反応さえあるでしょう。「よけいな手間」という感覚から、キャリア形成支援の最前線である管理職の協力が得られず、停滞を招いてしまうのです。

4.キャリア形成の理念への賛同から
 しかし5つの機能は管理職が本来担うべき機能であり、新たな負荷ではありません。むしろこうしたことをきちんとすることの方が組織の活性化や生産性の向上につながります。
 そこで大切なのは管理職にキャリア形成支援ということについて理念面での賛同を得ることです。仕組みを作るよりもまず理解者です。管理職の中でキャリア形成支援への理解者を見つけ、そこから輪を広げるのです。
 その際、キャリアとは何か、キャリア形成支援をすることが個人と組織にどんな効果をもたらすのかということを、自らのキャリアを考えるということを通して実際に理解してもらうのがよいでしょう。こうした場として中央職業能力開発協会では「CADS&CADI」という自己分析・キャリア開発ツールを用いた「管理職向け導入レベルのキャリア・コンサルティング・セミナー」を提供していますし、筆者の所属するNPOでも内的キャリア重視のキャリア開発ワークショップ(CDW)を行っています。こうした場に管理職を派遣して賛同者を増やしていくというのも一つの方法です。

5.マネジメント・スキル向上も不可欠
 ライン・マネジメントを推進していくためには、エージェントとしての機能を果たせるだけマネジメント・スキルを引き上げる必要もあります。
 経営理念などをきちんとわかりやすく伝え、それに基づく組織の考え方、さらに実現に向けた戦略、戦術を本人にブレークダウンして説明するなど、コンセプチュアル・スキル(概念化能力)が求められ場面が多くなるでしょう。
 またヒューマン・スキル(人間理解力)の向上も不可欠です。部下の話をきちんと受け止めるための傾聴のスキルや、キャリア・ゴールの設定を支援するコーチング・スキル、管理職としての要請を冷静に伝えるためのアサーション・スキルなども必要になってくるでしょう。


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 この記事は中央職業能力開発協会の月刊誌「能力開発21」2006年4月号〜2007年3月号に掲載されたものです。

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