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組織内展開のコツ
第8回
キャリア開発と
MBO(目標による管理)
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管理職の役割

【質問】
 キャリア形成支援をすることはMBO(目標による管理)にも関係していると聞きます。これらはどのように関係するのでしょうか。また経営上、どのような意味がありますか?

【答え】
 前回、キャリア形成支援について経営層の理解を得ようとするときに、どのように組織に貢献しうるのかという経営人事の観点からも説明する必要があるということを指摘しました。CD(Career Development)とMBO(Management By Objectives through self-control:目標による管理)の関連はその好例であり、重要なポイントの一つです。
 横山哲夫が「キャリア開発/キャリア・カウンセリング」(生産性出版)で示している図「個人と組織(仕事システム)」(左ページ)はこのことを考える手掛かりを与えてくれます。個人と組織(仕事システム)

1.個人と組織をむすぶのは「仕事」
 図では「仕事」を仲介として個人と組織がつながっています。忠誠心や所属意識、あるいは報酬などではありません。それらに意味がないというわけではありません。しかし仕事抜きの忠誠心、報酬による結びつきは、仕事に対する誇りや責任を失わせます。顧客の視点を欠いた組織ぐるみの不祥事、結果だけを追い求める勘違いの成果主義など、組織風土の荒廃の要因はこの本質を見失っていたことにもあります。また、仕事不在ではキャリアについて考えること自体に意味が無くなってしまいます。
 この個人と組織を結びつけている仕事について、これからの将来展開を考えるのが図の上半分にあたるCDであり、そのための様々な仕組み、取り組みがCDP(Career Development Program)です。個人にとっては自分のキャリア・ゴールやそこに至るためのキャリア・プランを考えることを意味します。
 組織にとっては経営理念や中長期経営計画の実現に向けてどのような人材をいつまでに、どのくらい、どのように育成するのかを考えることですし、その具体策として人材育成施策を立案・実施します。また個人のアセスメント情報を元に人材開発委員会で個別のキャリアについて検討したりします。

2.将来の仕事から現在の仕事を考える
 図の下の部分にあるのがMBO=目標による管理です。これは20世紀半ばからP・F・ドラッカーらによって提唱された経営管理の考え方です。自己統制によって仕事を進めていくことが、本人の意欲と創造性を引き出し、個人の職務満足の向上と組織の業績に結びつくというもので、モティベーション理論や行動科学の成果を、実際の経営管理に展開させたものといえます。
 重要なのは、仕事=目標について自己所有感を得ていることと、その決定と実施には個人が主体的に関われるという点にあります。ではどのような場合に自己所有感を持つことができるのでしょうか?
 それは、その仕事=目標をやり遂げることが自分自身を成長させ、将来こうありたいと思っている自己像に近づけると実感できているときでしょう。図では仕事人生の将来像であるCDから現在に向かって巻き戻した位置にMBOが置かれています。MBOで取り上げる仕事=目標が仕事人生上のゴールに結びついていくものであるとき、その達成に向けた意欲が湧くことになるのです。仕事人生上のゴールが明らかであればあるほど現時点で取り組むべき仕事も明らかになりますから、キャリア形成支援をすることがより的確なMBO上の目標設定につながり、その運用を助けることになるのです。

3.組織からの要請と個人の希望の擦り合わせ
 しかし組織には当面の経営目標を達成するために個人に担わせたい職務上の役割もありますし、長期人材育成の観点から身に付けて欲しい知識や職務経験などがあります。これらは個人サイドが考える目標と一致することばかりではありません。
 そのために組織としてはあらかじめ長期経営計画などの情報提供をすることで、個人がこれらを加味して将来への道筋と現在の仕事を考えられるようにしたり、面接を通じて適切に伝えたりします。
 そうしたプロセスを経てもなお一致しない場合も当然あります。相互選択(組織を離れる・組織から放す)ということになるのですが、お互いが長い視点で捉えられていると「今期は相手に主役を譲るが、来期はこちらを優先してもらいたい」といったように、いずれかが脇役に回ることで解決が図られるようになります。

4.評価はMBOの弾み車
 このようにして現在の仕事が定まれば、個人としては納得できる当面の課題になるでしょうし、納得できるが故に、その達成度合いが評価されればよりチャレンジしてみようという気持ちになるかもしれません。これが目標の達成度を人事考課に用いる理由です。評価のためにMBOがあるのではなく、あくまでもMBOがうまく回転していくように、いわば弾み車として評価・報奨のプロセスがあるのです。
 MBOが導入された時、多くの組織が着目したのは「納得できる評価制度」という点でした。自分が決めたのだし、達成度というのは結果を見られるので能力や態度を評価するよりは恣意的にならないだろうと考えたのです。
 もうお分かりのように、目標を立てることが重要なのではなくて、目標に自己所有感があることが大切なのです。MBOを導入してもうまくいかないのは、経営管理の考え方としてではなく、「目標を使った評価制度」としてスタートしたことにあったのです。
 また上司である管理職がCDとMBOの考え方と関連性を理解できておらず、目先の目標設定に終始したという点もあります。前号で述べた管理職の理解度、協力度もCD展開の重要な要素となるというのはこの点なのです。


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 この記事は中央職業能力開発協会の月刊誌「能力開発21」2006年4月号〜2007年3月号に掲載されたものです。

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