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キャリアカウンセリングの目的
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キャリアカウンセリングの実態と難しさ

【質問】
 キャリア・カウンセリングを組織内に普及させていきたいと考えていますが、まだ馴染みが少ないようです。キャリア・カウンセリングとはどのようなもので、どんな相談があるものだと説明すればよいのでしょうか?

【答え】
 カウンセリングという言葉は一般的に使われるようになりましたが、捉え方は人さまざまなようです。心の病を患っている人が利用するもので普通に生活している自分には縁がないという思い込みもあれば、商品購入などの場面で行う個別の相談をもカウンセリングと呼ぶといった濫用が誤解を増長しているという面もあります。
 カウンセリングとは何か? 限られた紙面でこれを定義するのは難しいのですが、端的に言うなら「何らかの解決すべき問題を持つ来談者とカウンセリングの専門家である面接者が、言語を中心とした相互作用を通じて行う心理学的な専門的援助過程であり、来談者が自己理解を深めて本人にとってよい意志決定を自ら行えるように援助すること」と言えるでしょう。従って病理的なパーソナリティの変容を目的とするサイコセラピー(心理療法)だけがカウンセリングではありませんし、個人の私的経験の範囲で行う相談や助言とは異なるものです。

1.キャリア・カウンセリングの内容は
 それではキャリア・カウンセリングで取り上げる内容はどのようなものなのでしょうか?
 名前の通り「キャリア」がテーマですから、今後のキャリア・プランを具体的にどのように描けばよいのかというものや、どのようなスキルや知識を獲得すべきかといった情報提供を行うことで本人が積極的、建設的な意志決定を自ら行えるようなケースもあります。いわば外的キャリアをどうデザインするかがテーマともいえます。
 しかし、そもそもキャリアの今後の方向性が分からない、あるいは自分の持ち味や何ができるのか、何に関心があるのかという内的な価値が分からないというケースもあります。これらは内的キャリアの探索がテーマといえるでしょう。
 また上司や同僚など職場での人間関係に関するものや自分のパーソナリティに関わるものも取り上げられます。またキャリアとは仕事人生であり、それを取り巻く全人生(Total Life)との間には深い関連がありますから、家族との関係や親の介護など全人生上の問題が取り上げられることも少なくありません。
 相談の内容が来談時は「仕事に対する熱意が湧かない」であっても、実際には配偶者のキャリアを尊重したいが自分のキャリアとどう折り合いを付けていいか分からないということもありましたし、本人は自覚していないけれども精神的に追い込まれて鬱状態になっているということもあるのです。

2.面接の三態様面接の三態様
 このキャリア・カウンセリングの幅の広さを理解するのに図「面接の三態様」が役立ちます。三つの円はキャリアに関わる「面接場面」を示し、円の重なりはそれらが独立しているのではなく重なり合い、連続し、同じ来談者−面接者の関係においても変わることがあることを示しています。
 育成面接は文字通り来談者の育成を考えることが目的であり、本人の意志を尊重するという基本原則は守られた上で、面接者の方からも情報提供やアドバイスを行うことがあります。
 開発面接は来談者の内的側面の探索、内的キャリアの明確化を支援し、外的キャリアへの具体的な展開とそれを実現するための課題設定を来談者自らが行うことを支援します。
 治療面接は自己理解、自己成長に向けた自己回復の支援面接であり、一時的に心理的非健常状態に陥っている場合も多く、前の二つの面接が一回から数回と短期間で終わることが多いのに対して継続的、長期的になることが多くなります。
 横山哲夫らは「事例キャリア・カウンセリング」(生産性出版)において、キャリア・カウンセラーはこのうちの開発面接を主としながらも、来談者のもつ課題、問題に応じて両隣の面接を求められることがあり、それゆえに面接者が自分の対応できる領域をきちんと認識しておく必要があることを指摘しています。

3.転職がテーマであったとしても
 では実際の相談事例を見てみましょう。25歳の女性Aさんは、大手企業の子会社で親会社の請負業務を行う部署で3年目を迎えています。
 「最近仕事をしていてもやる気が湧かない。総合職で入社したものの、請負という業務上、単発の仕事が多くて知識や経験を蓄積できない。他の部門の同期社員が経験を積んでいくのを見聞きするたびに、取り残されていくようで不安だ。転職したい」というのが来談の趣旨でした。
 面接者が話に耳を傾けるうちに、やりがいを感じていたのはどのようなときだったかという話になり、Aさんは「学園祭の実行委員として、メンバーと企画を立て、どんどん計画が実現していくことに喜びを感じた」と学生時代のエピソードを話し、さらに「そういえば今の業務は、黙々と一人で行うことが多く、終了しても達成感を得られない」ことに気がつきました。さらに「上司に今後のことを聞くと7〜8年はこの仕事をやるものだといわれ、このまま同じ業務をやり続けるのかと思うと目の前が暗くなったことを思い出しました」。
 その後の面接では、自分が大事にしたいことは何か? 自分の持ち味は何で、それを生かせるのはどのような仕事なのかが話され、結果的に転職ではなく、社内にある別部門に異動を申し出るという結論に至りました。「やれるだけやってみて、転職はそれから考えます!」といってAさんは面接室を後にしました。
 Aさんは転職することを前提に相談に来たわけですが、結果的には自己の内的キャリア探索をし、新たな方向性を得て面接を終えました。若年層の場合は、何が不満なのか自分でも分からないまま転職し、さらにそれを繰り返してしまうことが多いだけに、面接者と丁寧に自分を見つめることが有益なのです。


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 この記事は中央職業能力開発協会の月刊誌「能力開発21」2006年4月号〜2007年3月号に掲載されたものです。
 またこの回の事例についてはキャリア・カウンセラーの錦戸かおりさん(がんばれ工房)の協力を得ました。

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