まずカギになるのは「役割」を構成することです。
 職務給時代が長かった米国では職務記述書(ジョブディスクリプション)がしっかりしていますから、それぞれの社員が何をやらなければならないか、それに伴う権限はどこまで認められているか−などが詳細に決められています(最近は詳細に決めることによる不都合があるため、大括りにすることも増えているようです)。

 ところが日本ではもともと職務の範囲が曖昧で、何かことあればみんなで手伝って人海戦術でもやり遂げてしまえるような柔軟さが持ち味になっていました。
 人事考課の面でも、自分の仕事だけはきちんとやっているけれど、同僚や部下が困っていても知らない振りという場合は「協調性がない」とマイナスの判断がなされるほどでした。
 このなごりからか、役割毎に職務範囲を設定しようとすると「硬直的になるのではないか」と心配する方は尚多くいます。

 しかし、このとき考えておかなければならないのは、本来その役割は「もともと職務の範囲を超えてやるべき」なのか「まずはきちんと職務の範囲内をやるべき」なのかという点です。
 幅広く対処することがその役割なのであれば、元から役割の範囲として記述しておかなければなりません。
 そうでなければそのような期待をされていたこと自体を本人が知らずにいて、結果的に「役割を果たしていない」と評価されることになるからです。

 また、まずはきちんと自分の範囲をやるべき役割なのであれば、他の役割の仕事に手を出すことは、その領域では生産性が上がるかもしれませんが、本来やるべきことは進まないままになってしまいます。
 それでもよいのなら、その役割を廃止すべきです。それが業務改革です。

 実際にその役割についた個々の社員の自発性を期待すること自体に問題があるわけではありません。
 しかし基本領域をしっかり決めておくことのほうが先決です。

 役割の名前とその中身(職務)が決まったら、その職務を通じて何を達成することを求めるのか、その求める「成果」を記述しておきます。
 この点は非常に重要です。
 それぞれの役割は、経営理念、経営方針を実現するためにあります。
 ただ職務が実施されれば自動的に達成されるのではなく「成果」が挙げられなければ達成されないのです。「きちんとやっていること」が大切なのではなく、それが「成果」となって現れていなければなりません。

 端的な例を言えば、「営業」です。
 営業の役割を担った社員は、「営業活動」が職務として当然に入ってきます。
 この中には提案書をとりまとめ、顧客を訪問・プレゼンし・・・という行動が含まれます。
 この行動をきちんと行うことも当然必要なのですが、「成果」として「案件の受注」がなければ、組織の目標は達成できません。

 成果は受注額などの業績指標にとどまりません。「給与担当」であれば「ミスなく遅滞なく給与データを銀行に持ち込むこと」が成果になるでしょう。
 いずれにせよ、どのような結果、あるいは状態になっていることが必要なのかを明示します。

 役割を構成する際にそうであったように、成果も同様に、毎年変わる役割もあれば、数年の間は変わらない役割もあります。
 職務分掌規程を作ったが形骸化して使えないと言う会社をよく耳にします。
 これも「やるべきこと」は記述したが「成果」を記述していなかった、一度作った後、その後のメンテナンスをしなくて形骸化したのが失敗の原因です。

 ちなみに、目標による管理を推進している組織では、こうしたことが本来きちんと行われているはずです。
 それがMBO面接の目的でもあるからです。
 にもかかわらず成果が曖昧で評価がもめるというのは、本当の意味での目標による管理(MBO)とはいえません。
 これらの「成果」は、当然、人事考課にも利用が可能です。
 その理由もおわかりいただけるものと思います。

 この成果は経営方針、部門方針と連動しているはずです。
 なぜなら元々その役割は経営方針の実現のために設定した役割だからです。
 経営方針、部門方針に関係のない「成果」しかない役割や、「成果」が見つからない役割がもしあったら、それはリエンジニアリングの対象です。
 本当に必要かどうかを確認してください。
 その役割についている人が、これまでの人事制度の枠内で高い格付け(等級)であったり、経験年数の長い社員であったりしてもそうです。

 成果が特定できたら、それを導くために最も効果的な行動を併せて記述しておくとよいでしょう。
 多くの場合、その行動の内容がその職務を遂行するに最も相応しいモデルとなるはずです。
 初めてその役割についた人は、記述された行動を見れば自らの技量開発に何をすればよいのかがすぐに分かるようになります。


 役割を設定したら社内の格付けを設定します。
 我が国で現在最も多く導入されている人事制度の一つである「職能等級制度」では「人」に等級を与え、格付けをします。 その人の職能、職務遂行能力の高さを等級で示しているのでごく当然のことです(よい面も悪い面もありますが)。

 役割・成果主義人事制度の発想では「役割」を格付けます。
誰がやるのかではなく、役割そのものが生み出すであろう価値が格付けの対象となると考えるからです。

 AさんとBさん、二人の人がいるとして同じ役割なのに格付けが異なるというのは不自然です。
 格付けをかえるのであれば、求める役割の内容も変えるべきです。
 しかし、実際の職務配分の際はこうしたことを配慮して行うことは非常に困難です。
 多くの社員が同じ役割を担うのであればまだ何とか比較のしようもありますが、少数精鋭化を進めるとどうしても、誰が担当するかで求めるレベルを変えることはできない相談です。
 また、「この人は前任者に比べると能力が低いからこの程度のできで我慢しよう」と考えて職務の範囲とレベルを決めていては、組織目標の達成がおぼつかなくなってしまいます。

 役割を格付けるにあたっては、どのくらい細かくするのでしょうか?
 細かく見ればキリがありません。
 しかし、役割間で異動があることや、先に述べたように状況によっては隣の役割も手伝うこともあることを想定するなら、経験的には5階層程度が適当と思われます。
 6階層、4階層ではだめなのか、7階層は絶対にだめなのか−というとそのようなことはありません。
 しかし、あまりに細かく設定すると後々の運用が煩雑になります。逆にくくりすぎると、役割の質、価値の違いを反映できなくなります。

 役割に格付けをつけると、異動がしづらくなると言う指摘をよく受けます。
 確かに、格付けが下がる方向で異動させなければならないことも発生するでしょう。
 キャリア開発上、経験させておきたいというのもあるでしょうし、テコ入れのために有能な社員に担当させたいという場合もあるでしょう。

 しかし、キャリア開発上必要であれば本人は納得するものです。
 納得しないのであれば、それはその本人が自ら決定したことです。
 他の適任者を捜し、そちらに育成のウエートを移せば済むことです(その役割を経験させることが本当に不可欠なのかも考えるべきです)。
 また、テコ入れのために担当させるのであれば、「テコ入れ」という付加価値がつくわけですからその役割は元の格付けの役割ではないということになりますから役割の格付けそのものも見直しが必要です。
 ランクアップさせて対応します。
 ただし、テコ入れというのは期限を区切って行うものですから、一定期間後には元のランクに戻さなければなりません。
 
 なお、格付を設定する際は、次のような視点を考慮します。

@ その役割の難易度(難易度が高いほど格付けは高い)
A その役割の組織に対するインパクト
    (インパクト=影響度=が大きいほど格付けは高い)
B その役割の外部労働市場性(外部市場での格付け)
C その役割の内部労働市場性
    (その役割になりたい人が多いか。少なければ必然的に格付けは高くなる)
 組織にとっての重要性が主たる判断軸になるのですが、労働市場性を考慮する必要もある点に留意すべきです。
 組織内では管理職位の高さが格付に連動しがちですが、専門職のように社外から招聘することを考えると相応の格付としておかなければならないこともあります(外部労働市場性の考慮)。
 一方で、社内でその役割になりたい人が多い役割と、なり手の少ない役割があるときなどは、後者の格付を意図的に引き上げるということもあり得ます。なり手がない、つまり希少性が高いということになりますから経済合理性を考慮すれば、格付は高くてもおかしくはないのです(内部労働市場性の考慮)。

 最後に格付け後の役割を見渡しながらキャリア開発の道筋、つまりキャリア・パスを検討します。
 どの様なルートをたどって上位の役割へと進むのか。
 ある役割を担うためにはどんな役割を事前に検討しておくとよいのか。
 そのようなことをまとめておき、社員に公表します。

 社員は公表されたキャリア・パスを見て、これを参考にしながら自らのキャリア開発計画を立案するわけです。

 いわゆる出世コースを決めようというのではありません。
 ゴールになるのは取締役だけとは限りません。
 専門的な知識やスキルを要する役割もゴールとして十分意味を持ちます。こちらにも社内的な格付、つまり社内的な意味づけを持たせることでそこを目指す人が出てくるようになります。別の言い方をすれば組織がその役割を重視しているというメッセージにもなるのです。職能資格制度が複線型人事と称して専門職コースを示したものの、実態は「閑職」扱いだったり、管理職コースよりも位置づけが低かったためうまく機能しませんでした。このようなことにならないようにしておく必要があります。

 パスを検討する際は、過去の事例にも目を向けるとよいでしょう。
 優秀な営業部長であるあの人はどの様な経歴の持ち主なのか。
 中でもどの様な経験が役立ったのか。そういったことを参考に設定します。

 なお、このパス以外には考えられないというわけではありません。
 あくまでもガイドラインであり、社員が自分の将来を考えるとき、あるいは組織が定期的なローテーションを考えるときの参考にしようというものです。

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